国際情報

中国軍制服組トップは田母神氏に日本軍批判の筋金入り反日男

 隣国の対日戦略を理解する上で、鍵となる人物を知ることは不可欠だろう。国際教養大学教授でチャイナウォッチャーとして知られるウィリー・ラム氏が指摘する。

* * *
「私の叔父は戦時中に日本に強制連行され、炭鉱で奴隷のように死んだのです」

 ヘーゲル米国防長官が4月上旬、北京で会談した範長龍・中央軍事委員会副主席の口から飛び出した言葉だ。

 範氏といえば中国人民解放軍の制服組トップで、習近平・国家主席(中央軍事委主席)に次ぐ軍内ナンバー2。その範氏が日本の犠牲となった親族を持つことは知られていなかった事実だ。

 範氏は終戦の2年後の1947年5月生まれで、日中戦争は知らない。しかし、範氏が生まれた中国東北部の遼寧省丹東市は旧満州国の施政下にあった場所で、範氏の父母や親戚が旧日本軍と関係し、苦難を経験したとしてもおかしくはない。

 少年時代、父母や親戚からそのような話を聞かされていれば、自然に反日感情が植え付けられたに違いない。

 田母神俊雄・元航空幕僚長によると、同氏が2004年6月に統幕学校研修団長として北京を訪問した際、総参謀長助理(補佐)だった範氏と30分ほど会談。範氏は冒頭から10分間も滔々と日本軍の残虐行為への批判を続けた。制止しなければ止まらないほどの勢いだったという。まさに筋金入りの反日の闘士だ。

 見方を変えると、習主席が範氏を軍ナンバー2に抜擢したのはそのためとも考えられる。なぜならば、範氏が中央軍事委中枢で勤務した経験は2003年から1年間、総参謀長助理の期間だけだからだ。それ以外は入隊してから30年以上も東北部の瀋陽軍区にある陸軍第16集団軍勤務で、2012年に軍事委副主席に就任するまでの8年間は済南軍区の司令官を務めた。軍歴のほとんどは地方部隊勤務という幹部が軍ナンバー2に昇進した例はこれまでにない。

 地方勤務が長かった経歴は習氏も同じで、習氏は範氏を信頼しているのだろう。

 範氏は習氏の期待に沿うように、ヘーゲル長官との会談で対米批判を展開した。さらに、長官が訪中前に日本で「尖閣諸島は日米共同で防衛する」と明言し、日本の集団的自衛権行使に賛同したことについて、「あなたは強硬であり、(反中的な)態度もはっきりとしていた。私も含めて、中国国民はあなたに非常に不満である」と強い調子で詰問したのである。

■翻訳・構成 相馬勝(ジャーナリスト)

※SAPIO2014年6月号

関連キーワード

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン