タクシーの営業活動を規制する改正タクシー事業適正化・活性化特別措置法が1月から施行された。それに伴って、国土交通省によるタクシー運賃の監督は改正前よりさらに厳しくなった。
簡単にいえば、役所が運賃の下限を決め、従わないと運賃変更命令や車両の使用停止処分を出す。それでも抵抗すれば、事業許可を取り消すという内容だ。利用者とすれば嬉しい話ではないが、動いたのはタクシー会社のほうだった。
MKグループなど大阪の複数のタクシー会社が運賃変更命令などの差し止めを求めて大阪地裁に仮処分を申請した。地裁は5月23日、国交省が定めた狭い運賃幅が「裁量権の範囲を逸脱している」として差し止めを命じる決定を出している。
最終的な判決ではないものの、司法が「タクシー特措法による運賃の決め方に問題あり」という判断を下した形である。ところが、ここへ来て司法判断に逆行するように、役所の裁量によって一段と規制強化が進みかねない事態が水面下で進行している。
どういうことか。
今回のタクシー特措法では、供給過剰に陥りやすい大都市を想定して、国交省が新規参入や増車を禁止したり、強制力のある供給削減措置(免許取り消し)を発動する「特定地域」を指定できる仕組みになっている。問題はその指定基準だ。
いま役所が検討している案だと、運転手の賃金水準や車両の稼働効率、事業者の収支状況、地域の意向という4つの指標で特定地域に指定するかどうかを決めるという。
そもそも4つの指標だけで十分か、という問題がある。利用者の利便や安全運行の確保といった課題も重要であるからだ。
4つの指標に絞ってみても、判断基準が恣意(しい)的だ。国交省は、たとえば「賃金や車両の稼働効率が前回(2002年)の規制緩和直前の水準を下回ったかどうか」「地域の赤字事業者が2年連続50%超になったかどうか」といった状態を想定しているようだ。
それらの指標を現実にあてはめると、どれくらいのタクシーが規制対象になるか。事態を懸念した規制改革会議は役所の担当者を呼んでヒアリングした。すると少なくとも全国の約6割、もしくはそれ以上のタクシーが下限運賃の厳守を強いられそうな実態が明らかになった。