芸能

平幹二朗 主役から脇に回り全体を見て演じることが分かった

 俳優座でデビューしてから半世紀以上の役者人生のなかで平幹二朗は長らく主役を務め続けてきた。ところが、最近では脇役を演じることが増え、そのことで初めて分かったことがあるという平が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載「役者は言葉でできている」から抜粋してお届けする。

 * * *
 1960年代初頭から半ばにかけて、平幹二朗は数多くの東映時代劇に悪役として出演している。また、1963年にはフジテレビの五社英雄監督による大ヒット時代劇『三匹の侍』で主役の一人を演じ、知名度と人気は全国的に広がっていった。

 映画やテレビドラマでは主役と脇役の双方を演じてきた平。舞台では若手時代を除くと長く主役を務め続けてきたが、近年になって脇での出演も増えてきた。舞台の場合、主役はほぼ出ずっぱりだが脇役は出入りが多いため、本番中の心持ちも変わってくるようだ。

「芝居では主役を四十年くらいやってきて、この十年くらいですかね、脇に回るようになったのは。脇役だと、主役時代のグッとくるものがないのは事実です。これは俳優には越えていかないといけない過程なのですが、僕は来るのが遅かった。芝居の主役の手応えっていうものは、体が忘れないんですよ。理性ではもう僕はそのポジションじゃないと分かっているのですが。

 俳優座時代、東野英治郎さんと何かの芝居でご一緒した時のことなのですが。セリフのスピードをちょっと丁寧にということを意識して演じていたら、東野さんに『幹、君は自分の心理の流れでやっているだろう。でもこの芝居自体はもう一つ速いテンポで進んでいっている。

 自分の役のテンポと芝居が進むテンポは同じではないんだよ。自分の気持ちで喋っていたら、遅すぎる時があるんだ。芝居は主役が芯をとってリードする。その流れている芝居のテンポに沿って、自分の役を作っていかなきゃいけない』と言われました。

 今、自分が脇をやるようになって、東野さんのおっしゃったことがよく分かります。芯をやっている時は芯のテンポで芝居が進んでいきますけど、脇をやっている時は、そのテンポに乗って、必要なことをやっていく。遅らせてはいけないんです。全体を見て演じるということが、今頃になって分かりました」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。

※週刊ポスト2014年6月13日号

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン