6月15日、元F1王者のミハエル・シューマッハ氏(45)が昏睡状態から脱してリハビリを開始したと報じられ、世界中のファンが「奇跡の生還」を喜んだ。
昨年末のスキー事故による脳挫傷から6か月、「植物状態」で回復の見込みはないとの情報も流れていた最中の電撃発表は、医学的な見地からも大きな関心を集めている。
シューマッハ氏を生還させた「脳低温療法」とは、どんな治療法なのか。脳低温療法とは、患者の体温を下げ、脳の温度を32~34度の低温状態で管理して脳の回復を促す治療法だ。同療法を実践する回生病院(香川県)の関啓輔救急センター長はこう解説する。
「打撲すると腫れて熱を持ちますが、そこを湿布で冷やすと炎症が治まって腫れが引いていく。極めて簡単にいえば、同じ処置を脳でやるということです」
心停止や頭部外傷で脳細胞が壊れると脳全体が腫れ、それにより周辺部が圧迫される。この状態になると脳は熱を溜め込み、44度近くまで上昇する。それが続くと正常な脳細胞も次々と死滅し、脳に障害を及ぼしたり脳死へと進行していく。脳低温療法はその熱を取り除き、正常な細胞を守る療法だ。
「蘇生しても正常な細胞が死んでしまうと後遺症が残る。それを防ぐことで、後遺症の軽減に成果があります。心停止後に脳低温療法を行なった患者で社会復帰できた割合は55%で、通常体温下での治療の39%より高いというデータもあります」(前出・関氏)
基本療法は、まず心臓を蘇生させて脳への血流を確保し、脳の血腫除去などの手術を行なう。次に、内部に冷水が流れるブランケットで全身を冷やすか、血管内にカテーテルを入れて血液を冷やす方法などにより、脳の温度を32~34度に保つ。
脳波などから回復サインが読み取れれば、1日に0.5~1度の範囲で温度を通常体温に戻す復温を行なう。
この治療法が発案されたのは1950年代にさかのぼる。そこから1970年代にかけアメリカを中心に各地で研究されてきたが、温度管理の難しさや、免疫力低下による肺炎の併発、さらには心機能低下による死亡例が多く発生。そのため過去には「危険な療法」と指摘されたこともある。