新型出生前診断が昨年4月に始まって1年あまり。20万円あまりという高額ながら、血液検査だけで、ダウン症など胎児の染色体の病気が高い精度でわかるというので、1年間に検査を受けた人はおよそ8000人。
そのうち病気の可能性がある「陽性」と判断を受けた人は少なくとも141人いる。本来、陽性と判断を受けた人は、病気の有無を確定させるために、羊水検査を受ける必要があるのだが、先月、確定診断を受けないまま人工妊娠中絶をしていた妊婦が2人いたと報じられた。
それも、わざわざ新型出生前診断を受けたのとは別の機関を訪れて、中絶手術を受けたとされている。その詳細を知るため、窓口となっている日本産科婦人科学会に取材すると、こんな返答が。
「それはオフィシャルの公表ではなくて、なんらかのリークだと思います。こちらでは、新型出生前診断を実施している医療機関から報告を受けて、まだ取りまとめているところですから。ただ、正直なところ、出生前診断を受けた機関と、出産をした機関、中絶をした機関が別々のケースもかなりあるので、データがどれだけ集まるかは定かではありません」(事務局)
つまりは、こうした数字は氷山の一角で、実際にはほかにもこうした例があるかもしれないということだ。日本産科婦人科学会の前理事長で慶応大学名誉教授の吉村泰典さんはこう指摘する。
「精度の高い新型出生前診断を導入した以上、こういうことが起こるのはわかっていました。確定診断を受けずに中絶した人がいることは残念ですが、では羊水検査を受けて中絶したならば、それはいいといえるのか。そうではないはずです。
情報が多ければ多いほど、判断は難しく苦しくなります。知らないほうがよかったということは、いくらでもあるでしょう。羊水検査を受けずに中絶した例は、私の経験からいえば、実際にはもっとたくさんあるはずです」
吉村さんは、羊水検査の結果、何百という染色体の病気を告知してきたが、その結果、出産を選んだのはたった3例しかなかったという。ほとんどの親は、検査の結果を受けて中絶を選んだのだ。
今、日本では少子化が問題視され、どうやって子供を増やす環境を整えるかが、国会でも議論されている。その一方で、毎年、20万人以上が中絶を選択しているのが実情だ。東北大学教授で、宮城県立こども病院産科科長の室月淳さんもこう指摘する。
「新型出生前診断の141人の陽性者のうち、羊水検査を受けずに中絶したのが2人だけだとすると、全体的にはかなり丁寧にカウンセリングがなされていたと評価してもいいくらいだと思います。日本はそれぐらい非常に中絶の自由度が高い国です。
年間110万人の出生数に対して20万人の中絶という割合は、先進国でも飛び抜けて高いはずです。『経済的理由』が拡大解釈されて、法律の建前と違って自由に中絶ができるようになっています」
建前とは、母体保護法14条のこと。人工中絶の条件について、こう書かれている。
〈妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの〉
妊娠期間は22週未満。それはあくまで、母親側の経済的な事情や母体の命、健康によって判断される。
※女性セブン2014年7月17日号