引っ越し業者が廊下やドアに傷をつけた場合、どのように対処すれば良いのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
新築マンションを購入。ほかの入居者の引っ越しも相次ぎ、運送業者が重たい荷物を運び入れた結果、台車がぶつかったりして共用の廊下や自室のドアに傷がつきました。まだ住民を中心とした管理組合も作られておらず、管理会社も対応が曖昧です。このような場合の対処の仕方を教えてください。
【回答】
傷つけられたのが貴方の部屋のドアなら貴方の損害ですし、マンションの玄関ドアや廊下であればマンション全体の損害です。前者では加害運送業者等の特定が前提ですが、貴方自身が修復費用の損害賠償を請求できます。後者はマンション管理法に従います。分譲マンション購入者は区分所有者として全員で団体(管理組合)を構成します。
実際に規約や総会などがなくても、マンションの管理をする団体が当然に存在するのです。マンションの廊下等の共用部分は区分所有者全員の共有で、その管理は規約がなければ、管理組合の集会で決定します。
また、集会で管理者を決めれば、管理者は管理組合の代理人として加害運送業者等に損害賠償請求でき、不誠実な業者には、集会の決議に基づき裁判も可能です。通常、管理組合の理事長がこの管理者になります。
規約がないので、集会を開催して理事長を選び、共用部分の管理方法等を定めた管理規約を作る必要があります。集会は区分所有者の5分の1以上で、議決権(区分所有建物の床面積割合で決まります)の5分の1以上の区分所有者が招集できます。
管理会社の業務は管理委託契約を見ないとわかりませんが、マンション管理法では管理業者の業務は、共益費の出納やマンションの維持又は修繕に関する企画や実施などです。加害運送業者との交渉は管理組合の意思決定が前提であるように思います。
しかし、今後の被害発生の防止や管理組合の早期発足はマンションの維持にとって重要です。運送業者等への警告と監視、集会の開催などについて管理会社の助言が期待できます。
なお、区分所有者単独でも共用部分の保存行為ができるので、傷つけがちな個所については合理的で、必要最小限の一時的な養生や注意喚起の表示も可能と思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年8月15・22日号