ライフ

【書評】現代史に翻弄された作家・カミュ 一貫して暴力批判

『異邦人』『ペスト』で知られるカミュ(1913~1960)は現代史のただなかで生きた作家。かつてのフランス領アルジェリアの生まれ。父親は第一次世界大戦で戦死し、カミュはアルジェの貧民街で育っている。

 アルジェリア生まれのフランス人は本国では「ピエ・ノワール(黒い足)」と差別されたという。フランス人であってフランス人ではない。アルジェリアに生まれ育ちながらアルジェリア人ではない。
 
 石光勝『「カミュ」に学ぶ本当の正義』(新潮社)は、フランスとアルジェリアに引き裂かれながら生きることになったカミュの生涯を分かりやすくたどっている。副題に「名作映画でたどるノーベル賞作家46年の生涯」とあるように、随所で映画が参照される。アルジェリアを舞台にした「望郷」(1937年)、スペイン市民戦争を描く「誰が為に鐘は鳴る」(1943年)、アルジェリア独立を描く「アルジェの戦い」(1966年)など。
 
 カミュはノーベル賞を受賞後、自動車事故で亡くなるのだが、その四十六年の生涯は、「戦争と革命の世紀」といわれた二十世紀の歴史と深く関わっている。
 
 父親は前述したように第一次世界大戦にフランス兵として従軍し戦死した。貧困のなかで成長したカミュは青春時代に第二次世界大戦を体験する。結核だったため兵隊には取られなかったが、対独レジスタンス運動に積極的に参加する。

 『異邦人』は一九四二年にパリで出版された。ドイツ占領下に出版されたことになる。このあたり当時のフランスの複雑な状況を反映している。
 
 戦後、米ソ冷戦が起こる。フランスの知識人にはソ連支持者が多かったため、中道をゆくカミュは批判される。

 五〇年代に入るとアルジェリアの独立問題が起こり、カミュはフランスとアルジェリアに引き裂かれる。

 現代史に翻弄されて生きてきたことが分かる。そうした揺れ動く時代にあって、一貫して暴力を批判し、中庸の道を選ぼうとしたカミュに著者は共感している。「戦争と革命の時代」とは当り前な温厚な思想が批判されてしまう時代なのだろう。

※SAPIO2014年10月号

文■川本三郎

関連キーワード

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
《家族と歩んだ優しき元横綱》曙太郎さん、人生最大の転機は格闘家転身ではなく、結婚だった 今際の言葉は妻への「アイラブユー」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。  きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
年商25億円の宮崎麗果さん。1台のパソコンからスタート。 きっかけはシングルマザーになって「この子達を食べさせなくちゃ」
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン