およそ120年ぶりとなる民法改正により、賃貸住宅に入居する際に必要となる敷金が改正される見込みとなっている。敷金に関しては、これまでも借り主と貸し主の間でトラブルが絶えなかったが、引っ越しの際には、クーラーの洗浄代まで負担しなければいけないのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
急な転勤のため、引っ越すことになりました。その際、借主の私がハウスクリーニング代を負担するのは了承しましたが、管理会社が請求しているクーラーの洗浄代1万5000円には納得がいきません。契約書にも明記されていないのに、それでも敷金から相殺されるのは仕方ないことなのでしょうか。
【回答】
建物の賃貸借が終了して、借主が建物を明け渡す際には、原状回復義務を負います。借りた時の状態にして返す義務です。しかし、建物は使っているうちに時の経過とともに損耗していくものです。
借主はその使用の対価として賃料を支払っているので、その賃料には建物が普通に損耗していくこと(通常損耗)への補償部分(減価償却や補修費相当分)が含まれていると考えるのが普通です。もし通常損耗についてまで、借主に原状回復義務を認めれば、予期しない特別の負担を課すことになります。
そこで最高裁は、大家が借主に通常損耗にまで原状回復義務を課するためには、「補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されている」か、または「賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識」したなど、責任を負う通常損耗について、賃貸借契約上の合意の内容としなければならないと判断しています。
そして最高裁は、この合意の成立を認めるに当たっては、かなり厳格です。質問者が納得しているところを見ると、今回は明け渡し時のハウスクリーニング代は、借主負担と契約書に明記されているのでしょう。
それでも厳密にいえば、通常損耗に止まる場合でも借主負担でハウスクリーニングすることが合意されている必要があります。しかし、契約書に記載のないクーラーのクリーニングは、特に異常な使い方をして汚したなどの事情がない限り、合意のない通常損耗の負担を求めるものであり、不当です。洗浄代分の敷金の返金を要求すべきだと思います。
ところで、関西圏では契約終了時に敷金の一定割合を返さない「敷引」という独特の慣習があり、有効とされています。その代わり、借主は通常損耗に関する原状回復義務を負わないと解されます。
【弁護士プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年10月10日