中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授(60)が青色発光ダイオード(LED)の開発でノーベル物理学賞を受賞。「研究の鬼」と呼ばれた同氏の原点を2つ年上の兄・康則氏が明かした。
「私や修二が小学生の頃、親父が独自に算数の問題集を作ってくれていたんです。2年前に亡くなった親父は教育者でもなんでもない四国電力のエンジニアでしたが、我々は問題集を『父ちゃん算数』と呼んで親しんでいました。
振り返るとこれが技術者・研究者として人生を歩んでゆくきっかけだったのかもしれませんね」
康則氏は愛媛県で医療用3Dディスプレイを開発する企業の代表取締役を務める。弟の修二氏同様、技術者の道を歩んできた。
「中村家は4人姉弟。一番上に姉がいて、下3人が男。長男が私で次男が修二です。決して学校の成績が良かったわけではないが、全員数学だけは得意でしたよ。
『父ちゃん算数』はすべてを物語風に出題するんです。『修二君が100円持って10円のあめ玉2個と30円の鉛筆を一本買いました……』とかね。一緒に読み上げながら毎日何問もやった。当時は面倒だな、と思ったもんですが、それが良かったんですね」(康則氏)
この教育法の意義を教育評論家で心理学者の和田秀樹氏が解説する。
「公立の小学校低学年の算数では、ただ数を数えたり、簡単な足し算・引き算をやらせたりするものが主です。近年はそれでは数字への応用力や現象の中に隠された課題を見つけ出す能力が養われないと指摘されるようになり、私学や新鋭の塾では文章題を繰り返し解かせています。中村家はそれを先取りしていた格好です。
中村氏は実験が成功するまで何度も失敗を重ねていますが、『父ちゃん算数』は失敗の中から課題を探し出す能力のベースになったのでしょう」
姉弟の中でも特に父親になついていた修二氏は、誰よりも熱心に問題集に取り組んでいて、「2歳年上の私のための問題にも果敢に挑戦して解いていましたよ」(康則氏)という。
受賞挨拶での「研究の原動力は怒り」という言葉がクローズアップされたが、原点には父を慕う気持ちもあったようだ。
※週刊ポスト2014年10月31日号