「7人のおばちゃん、山で迷う」
この宣伝惹句、うまい! 絶対、見たくなる。期待は裏切られなかった。
脚本と監督は「南極料理人」(09年)「横道世之介」(13年)の沖田修一。アイデアの勝利だろう。「おばちゃん」が主人公になる映画がそもそも少ないのに、この映画は「7人のおばちゃん」が主人公。意表を突く。しかも演じている大半がプロの俳優ではなく、オーディションで選ばれた普通の女性たち。人生一度の晴れ舞台。彼女たちのういういしさが、さわやかに伝わってくる。
新潟の妙高あたり。秋の紅葉の季節に、地元の小さな旅行会社が、山の中の滝を見に行くツアーを企画する。温泉に一泊する。華やかな海外旅行や世界遺産めぐりに比べればマイナーな企画のためか、出発のバスに乗り込んだ参加者はたった七人。それも「おばちゃん」ばかり。なんともしょぼい。
ここから「おばちゃん」たちの小さな冒険旅行が始まる。いわば「おばちゃん版『スタンド・バイ・ミー』」。
バスから降りて山の中を歩き出したものの新米らしいガイド(これは男性)が下調べをしなかったらしく道に迷ってしまう。ガイドは道探しに消え、七人が取残される。山の中で迷子になってしまう。無事に帰れるか。
七人は、主婦、美容師、リタイヤした教師などさまざま(物語の進行と共にそれとわかってくる)。年齢も四十代から七十代まで。もっとも四十代の女性がいうように「四十過ぎたら女はみんな同じ年」だから全員「おばちゃん」といっていい。ちなみに本文での「おばちゃん」は決して差別用語ではなく愛称。
七人の人間模様が描かれてゆく。赤の他人が偶然、時と場所を同じくする。いわゆる「グランド・ホテル形式」。
率先してリーダーになる者。サバイバルのための知恵を出す者。一方、ふてくされて文句ばかり言う女性もいる。七人七様。この人間模様が面白い。群像劇になっている。
山の中で迷い、ついには野宿する破目に。しかし、その頃には親しくニックネームで呼び合っている。いがみ合っていた者どうしも打ち解ける。離婚した者。夫と死別した者。家庭や仕事に問題のある者。それぞれに悩みを抱えていることも分かってくる。最後は自力で滝にたどり着く。へとへとのハッピーエンド。「おばちゃん」たちに拍手を送りたくなる。
文■川本三郎
※SAPIO2014年12月号