衆議院選挙を伝える翌日の各新聞社の一面見出しが分かれた。なぜなのか、フリーライター神田憲行氏が「一読者」として、各社に質問した。
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14日に行われた衆議院総選挙は、自民党が議席数290(改選前-3)、公明党が同35(同+4)、民主党が同73(同+11)、共産党が同21(同+13)などの結果に終わった(のちに自民党は無所属の当選者を追加公認)。与党である自民・公明の両党を足して議席数は325(改選前+1)で、前回に引き続き総議席数(475)の3分の2以上を確保した。
これについて、翌15日の全国紙一面の見出しが興味深かった。以下、羅列する。丸括弧内は私が入手した新聞の版である。
朝日新聞(15版)「自公大勝 3分の2維持」
毎日新聞(14B版)「自民微減 291議席」(注・後に「自民横ばい」と変更)
産経新聞(14版)「自公3分の2超 圧勝」
読売新聞(15版)「自公圧勝 320超」
日経新聞(15版)「自公勝利 3分の2維持」
同じ選挙結果を前にしても、新聞社によって見方や伝えたいことによって微妙に見出しのニュアンスが違うのがわかる。「けしからん」というつもりはない。多様な言論があることはこの社会にとって有意義なことだ。
しかし自民党だけを見れば3つ議席を減らし、公明党と併せてもプラスマイナスで1しか増えていないのを「圧」勝とか「大」勝というのは、日本語の使い方としてしっくりこない。獲得議席数という数字に対して「圧勝」「大勝」と付けるのは、その新聞社なりの評価を含んだ表現である。その含ませたロジックが聞きたい。
そこで各新聞社に「一読者」として見出しの理由を訊ねてみることにした。ルールは代表番号に掛けて、「あの、読者なんですが、今日の見出しに質問があります」という問い掛けから始めること。そのままオペレーターが答えるか、しかるべき部署に回すか、回すとしてもその部署の選択も、全て相手に任せる。結果的に全ての新聞社が「お客様相談センター」(社によって名称は異なる)のようなところでの対応となった。
朝日新聞はなぜか最初に「紙面検索担当」みたいなところに回された。
「うーん、これは編集の判断だと思うのですが……相談センターに回しますか?」
ということで交代したお客様相談センターの方は
「うーうん……結果として3分の2を維持したので、大勝した、ということだと思います。(「編集判断ということですか」)そうですね」
電話を切るときに唯一、「よろしければ」と住まいと年齢層を訊ねられた。たぶんデータ化して読者層の調査として使用するのだろう。
どこか自信なさげな朝日新聞に比べて、自信満々だったのが読売新聞だ。
「前回が(3分の2越えで)『圧勝』だったので(今回も同様に)圧勝ですね。これが自公併せて300議席でも絶対安定多数なので圧勝。これはどう考えても圧勝だと思うんですけれどね」
お客様相談センターは普段は「読者」と名乗る人からの無茶な質問や難癖まがいの電話がくるのだろうか。素朴な疑問の私に対しても最初から早口で「圧」が感じられる口調だった。ただ理屈としてはなるほどとは思った。
産経新聞も自信満々だった。
「前回の議席数と比較してというわけではなく、今回の結果だけ見ても、自公だけで3分の2を超えているので圧勝でしょう。自民だけでも475のうち290ですから、圧勝だと思います」