未曾有の超高齢化社会の到来を前に、介護問題が国民的な課題となっている。介護をする側もされる側も恐れるのが「認知症」だが、認知症はそれほど恐れるものではないと説くのが、ベストセラー「ペコロスの母」シリーズの著者・岡野雄一さんだ。岡野さんはこう語る。
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世の中では、認知症というと、認知症の本人は不幸のどん底で、介護する家族もボロボロになるというイメージが強かったように思います。だから、誰もが、「親が、あるいは自分が認知症になったらどうしよう」と、恐れています。
しかし、私が『ペコロスの母に会いに行く』という漫画の題材にした母の介護体験で言えば、母は認知症になっても決して不幸には見えませんでした。認知症が進行するにつれ、仲の良かった幼なじみや晩年に穏和になった父など、すでに亡くなっている人々が幻覚で現れたり、楽しかった子供時代に戻ったり、いい思い出だけが濾過されて残っていくように見えました。
私の父は、いい人なんですが心が弱くて、酒を飲むと暴力をふるいましたが、そういった辛い思い出はなぜかすっぽり抜け落ちて、話に出てきたり、幻覚で見たりするのは、晩年の「穏やかな父」ばかりになりました。ボケるのも悪くない、そう思いました。
そもそも私は、「認知症」という言葉があまり好きではありません。医学の世界では、認知症は病院に通院して、医者にもらった薬で治すべき「病気である」という捉え方が広まってきたのだろうと思います。
しかし、現在ある認知症の治療法や予防法はあまり効果がないと言います。だとすれば、認知症は「病気=異常な状態」であると考えて、いつかは治ると信じて介護を続けるのは、介護者にとってもご本人にとっても辛過ぎるのではないでしょうか。
「認知症は病気だから不幸」と考えるより、「年を取ったらボケて当たり前、そのほうが幸せ」と捉えるほうが、きっと気が楽になるはずです。
※SAPIO2015年2月号