涙は心のデトックスだという──。病に闘う32才の会社員Aさんと、その家族の感動エピソードを紹介します。
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私は、無毛症という病気で、生まれた時から髪の毛が1本もありません。幼稚園で「ハゲ」と笑われてからは、かつらをかぶって過ごすようになりました。ですが、帽子と同じでずれやすいので、「バレるんじゃないか」とハラハラして過ごしていました。
そして中学生になった時、恐れていた事件は起こりました。その日は、頭皮にかぶれがあって薬を塗っていたので、滑り止めがきちんとはまらず、かつらが少しずれてしまっていたのです。前の座席の女子が、私を見るなり目を丸くして、「髪どうしたの?」と指をさしてきました。そしてすかさず、ほかの男子が私の頭をはたいたんです。
今でも思い出すと胸が痛くなります。かつらは床へと落ち、クラス中が一瞬静まり返りました。そして、「パチンコ玉かよ」と誰かが叫んだのです。クラス中が冷たい笑い声に包まれ、私は死にたくなって教室を飛び出ました。
かつらもかぶらず帰宅した私をみて、母は驚いた様子でしたが、何も聞きませんでした。私は数日ほど部屋に引きこもり、食事は母が廊下に置いてくれたものを食べる。その間も母は、事情を聞いたり出て来いと責めたりもしませんでした。
数日後、私がトイレにと階下へ降りると、母が居間で新聞を読んでいました。「お、出てきたな」と笑う母の姿に驚いたのは私のほうでした。なんと母は、丸坊主だったのです。「誰が何と言おうと、あんたは私のかわいい娘。髪もおそろいにしてみたよ」と母は笑いながら私を抱きしめてくれました。
その後しばらくして復学。相変わらず、ひどいことを言う人はいたし、傷つくことはありましたが、母を思い出し、こらえられるようになりました。
そんな母は「洗うのが楽だし、かつら生活は楽しいから」と60才になった今でも丸坊主。今では一緒にかつらを共有して、いろんな髪形を楽しんでいます。
※女性セブン2015年4月2日号