厚生労働省の調査では、人口の約16%がスギによる花粉症と推計され、ここ20年で増加の一途をたどっている。こうした季節性のアレルギー性鼻炎だけでなく、ハウスダストなどによる通年性のアレルギー性鼻炎患者も増加している。
通年性アレルギー性鼻炎は、アレルギーの原因となるハウスダストなどの抗原を吸い込むことで鼻粘膜に付着し、アレルギー反応を起こす。これにより粘膜が腫れ、鼻水、くしゃみ、鼻づまりといった症状が1年中続く。
治療の第一選択は、服薬や点鼻(てんび)薬の使用だが、それでも症状が軽快しない場合には、手術という選択肢もある。鼻のクリニック東京の金谷毅夫手術部長に話を聞いた。
「1960年代にイギリスのゴールディング・ウッド医師が、鼻水を分泌する副交感神経であるヴィディアン神経(後鼻〈こうび〉神経)を切断する手術を開発しました。症状は緩和したのですが、術後合併症に涙の分泌障害が起きることがわかり、次第に衰退していきました。
その後、大きな合併症をともなわず、ヴィディアン神経切断術と同等の効果のある手術として、1997年に当クリニック院長である黄川田徹(きかわだとおる)が、内視鏡を利用した後鼻神経切断術を考案しました」
これは鼻から内視鏡を挿入し、ハイビジョンカメラによる拡大画面を見ながら、鼻腔(びこう)から0.5ミリほどの太さの副交感神経を露出させ、切断するという手術だ。この神経は蝶口蓋(ちょうこうがい)動脈という鼻腔に栄養を送る大切な動脈と並走しており、動脈を傷つけずに神経を切断する必要がある。高度な技術を必要とするが、神経のみを切断することで、術後出血のリスクや鼻の機能低下を防いでいる。
ヴィディアン神経切断術では、神経の中枢に近い部分で切断していたが、新手法は鼻に分布する末梢側の神経を切るので、涙分泌障害という合併症が起こらない。また、くしゃみ反射に関わる三叉神経の成分も含んでいるため、くしゃみも減少する。