なぜ人間はセックスするのだろうか。もちろん生物学的な目的は子孫を残すためだ。しかしそれならばオスがメスに挿入して射精し、受精に導くだけで事足りる。現に他の動物の交尾は、非常に短時間かつシンプルに終わるケースがほとんどだ。
だが人間はそれでは満足しない。時間をかけてお互いを愛撫し、愛の言葉を囁くなどして時間をかける。挿入してからも何度も体位を変えるなど、十分に愛し合ったうえで射精に至る。生物学的に考えれば、極めて非効率的な行為なのだ。
簡単にいってしまえば、「そのほうが気持ちいいから」である。では、なぜ人間はセックスに「気持ちよさ」を感じ、求めるのか。実は人間のセックスには、脳の進化が大きく関係している。脳科学者の塩田久嗣氏が解説する。
「人間の脳は長い進化の過程において、生殖だけを目的とする動物の交尾行動とは異なり、性的な快楽を得ようとするようになりました。本能的な生殖行為を司るのは大脳辺縁系や視床下部と呼ばれる脳の内側の部分です。しかし、人間の脳はその周囲に理性や知性を司る大脳新皮質が発達した。そのため本能に起因する生殖活動に理知性が加わり、挿入・射精という原始的な営みだけでなく、様々な性的行為を身につけるようになったのです」
人間がセックスの途中で相手の性器を舐めるなど、性交とは無関係の行為に及ぶのもそれが理由だという。そうした行為は「どうすればより気持ちいいか」を探した結果に他ならない。医師で作家の米山公啓氏が解説する。
「人間が気持ちいいと感じるのは、脳の『報酬系』と呼ばれる領域が活発化して、頭部前方にある側坐核などから脳内物質のドーパミンが放出される時です。ドーパミンは別名『快楽ホルモン』と呼ばれる。そこで得た満足感や多幸感が頂点に達すると、オーガズムに導かれます」
相手をなんとかしてイカせたい、自分もイキたいと思うのは、脳に支配されていた快楽のプログラムだったのである。
※週刊ポスト2015年4月17日号