現在、およそ120年ぶりとなる民法改正が審議されており、居酒屋の“ツケ”の時効がこれまでの1年から大幅に延長されるなど、借金に関するルールが変更される可能性が浮上している。借金の取り立てというものはどうしても言い出しにくいものだが、特にその相手が上司だった場合は尚更だ。上司が小銭を借りてばかりで困るような場合、円満な返済方法はあるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
上司が私から気軽に小銭を借りていきます。金額的には1000円未満なのですが、それでも月に5000円以上は貸していて、1回も返してもらっていません。返済を求めたくても上司ということで、なにもいえない状態が続いています。こういう場合、円満に返済してもらえる方法はあるのでしょうか。
【回答】
今、お金がないからと、少しの期間借りることを「寸借(すんしゃく)」といいます。返す気がないのに返すといって、借りれば騙したことになります。これがいわゆる「寸借詐欺」です。
金額の多寡には関係ありませんから、上司が返すといいながら、返す気もなく借りていれば、詐欺になりますが、返す意思が最初からなかったということはなかなか証明できません。その上、何度も繰り返しており、あなたも返してもらうことを念押ししていないと、上司からはくれたものと思っていたといわれそうです。
返してもらうためには、社内の相談窓口や人事担当者に相談することが考えられますが、従業員間の行き過ぎた貸し借りは、職場の秩序を乱す原因になりがちであり、就業規則中の職場の服務規律で禁止されていることがあるので確認してください。
もし、貸した方も制裁を受けるようであれば、まずは、一度返済を要求しましょう。借りていないとか、返す約束はしていないと、とぼけられたときには、制裁覚悟でオープンにするか、泣き寝入りしかありません。
あなたは、円満解決を希望しているとのことです。人事考課を心配して寸借に応じていた以上、人生修行として諦めることになりますが、少なくとも以後の寸借の依頼はないはず。上司がとぼけることなく、返済を待ってくれという姿勢で対応すれば、借用書を書かせるチャンスです。無理なく返せる予定を確認した上、貸した日と金額、これらのお金を借りていること、返済日を明記して、署名押印してもらえば上出来です。
上司は社内に知られれば困るでしょう。証拠を残した以上、不公平な評価なども難しいですし、借金から逃げることもできません。約束を破れば簡易裁判所の調停など、社外の制度を使って請求する方法もあります。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年5月29日号