球界の重鎮が語る現在のプロ野球ペナントレース。歴代1位の949試合、同2位の5130投球回を記録し、「ガソリンタンク」の異名を取るほど無尽蔵のスタミナと強靭な肉体を誇った米田哲也氏(77)の矛先は、過保護気味な投手陣に向いた。
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昔は肩が壊れれば辞めてやる、くらいの覚悟を持っていましたからね。今のプロ野球はピッチャーに限らず、球団が選手を甘やかしすぎ。選手は過保護に育てられているので、そんな覚悟を持てないんです。
僕らの時代には、キャンプでは1日350球を投げました。1時間半はかかるので、受けるキャッチャーも大変でした。専属のキャッチャーがいて、しかも僕らはキャッチャーに「(捕球する時に)いい音を出してくれ」と注文をつけました。
いい音を出すには、きっちりミットの真ん中で捕球しないといけないから、痛いんです。でもいい音が出るとピッチャーも波に乗ってどんどん投げることができる。優秀なキャッチャーは、ピッチャーを調子づかせる名人でもありましたね。
当時は先輩がひたすら投げているから若い者も投げざるを得なかった。僕や山田(久志)の投球を見ていた佐藤義則(現・ソフトバンク一軍投手コーチ)が「先輩が投げているんだから」と最後までつきあっていたが、そういう選手ほど長く現役生活を続けて実績も残しました(佐藤は41歳でノーヒットノーランを達成)。
こういう練習をしていれば夏場にバテることもない。夏場に完投すれば1試合で1.5キロは痩せました。体調が良ければ翌日には体重が戻るが、悪いと元には戻らない。僕は夏場に強かったんですが、夏場に踏ん張れば大抵はバテてくる他の投手と差がつく。そうやって成績を伸ばしたんです。
それから、打たれるとファンがしっかり叱ってくれましたね。球団だけでなくファンも厳しくしないと、ピッチャーはしっかりしない。中6日で投げてケガをするような選手は、ファンが「お前なんかいらん」といってやるべきです。
●よねだ・てつや/1938年、鳥取県生まれ。阪急のエースとして、19年連続2桁勝利を記録。歴代1位の949試合、同2位の350勝・5130投球回をマーク。その驚異的なスタミナから「ガソリンタンク」の異名をとった。
※週刊ポスト2015年8月21・28日号