国内

「プロ野球の父」正力松太郎氏 「原子力の父」という一面も

 読売新聞中興の祖である正力松太郎。A級戦犯容疑で巣鴨に収監され、釈放された時、62歳になっていたが旺盛な精力は衰えていなかった。ノンフィクション作家・佐野眞一氏が追った。

 * * *
 正力は生涯大欲の人だった。戦前の昭和9年、巨人軍の前身の大日本東京野球倶楽部をつくり、「プロ野球の父」といわれていたが、その程度で満足できる男ではなかった。

 昭和26年のサンフランシスコ講和条約の締結により、公職追放が解除されると、正力は腹心の柴田秀利を使って、日本にテレビの導入を図った。これにより正力に「テレビの父」という称号が加わった。

 次に正力が目をつけたのは、原子力の平和利用だった。ここでも活躍したのが、正力の「影武者」ともいうべき柴田だった。柴田はまず、日本にテレビを導入するにあたって親交を結んだアメリカ人技師に手紙を送った。

 返事には日米双方のために役立つことなら喜んで協力したいと記され、原子力平和利用使節団の一行として、ジェネラル・ダイナミクスのオーナーや、第二次世界大戦中はマンハッタン計画に参画し、ノーベル物理学賞を受賞したアーネスト・ローレンスら5名を派遣したいと書き添えられていた。柴田がこの手紙をもって正力のところへ行くと、正力は喜色満面となって、こう言った。

「アメリカがそこまで力を入れてくれるなら、ついでに原子炉の一つぐらい寄贈してもらえ。広島、長崎の償いと思えば安いもんじゃないか」

 この鉄面皮こそ、正力の真骨頂だった。

 昭和31年9月18日、茨城県東海村の原子力研究所は朝からお祭り気分だった。午後1時、式典は神官のおごそかな祝詞とともに始まった。原子力委員会の初代委員長に就任した正力は白い布のかかったテーブルの上のスイッチをおもむろに押した。

 このとき、わが国初の原子炉が臨界点に達した。これは、正力の生涯にとっても一つの臨界点だった。この日、正力の頭上に、「原子力の父」という新たな冠が加わった。(文中敬称略)

※SAPIO2015年10月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
韓国2泊3日プチ整形&エステ旅をレポート
【韓国2泊3日プチ整形&エステ旅】54才主婦が体験「たるみ、しわ、ほうれい線」肌トラブルは解消されたのか
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン