今年5月、『空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、特措法と表記)』が施行された。この特措法によって、各市町村は倒壊の恐れや衛生上の問題などがある空き家を「特定空家」に指定し、立ち入り調査や持ち主への助言、勧告、命令などができるようになった。また、指導や勧告を無視していると、税制の特例措置が解除され、放置している空き家の固定資産税が一気に6倍になる可能性がある。さらに、ここまでしても従わない持ち主には、「行政代執行」という形で法的に行政が空き家を強制的に解体することができるようになったのだ。
特措法によって空き家の強制処分が可能になったが、課題は山積みだ。まず、「特定空家」と判断する基準が市町村に委ねられることから、特措法は空き家問題の抜本的な解決にはならない、と不動産コンサルタントの長嶋修さんは指摘する。
「特措法で強制処分の対象となる『特定空家』は、ボロボロで崩れ落ちそう、犯罪が起きて危険そうなど、認定までのハードルが高い。全国820万戸もある空き家に対応するのは難しく、特措法で空き家が減るとは思えない」
逆にいえば、こまめにメンテナンスをしていない空き家でも、すぐには強制解体にならないということだ。
また、費用の問題も大きい。ケースバイケースだが、所有者が自ら解体を行うと数百万円かかるとされる。かといって、放置しておくと税金が上がり、最終的には強制解体に追い込まれる。
自治体が強制処分を行う場合、特措法により解体費用は持ち主に請求できるようになったものの、実際には自治体の負担が増していくことが予想される。
「現状では所有者がわかっていても、いろんな理由をつけて解体費用を払わないケースが目立つ。損害賠償の裁判と同じで、判決で支払いを命じられても、払えないものは払えない。すると結局、空き家は税金で壊すしかなくなる」(長嶋さん)
秋田県大仙市ではこんなことがあった。同市は条例により、2012年3月に空き家解体を行った。その後、今年5月までに崩壊寸前の倉庫など3件13棟を解体したが、所有者に支払い能力がなく、かかった費用計600万円のうち、回収できたのはわずか3万円だった。