国際情報

スンニ派高僧や支援者ならIS説得可能ではと鎌田實医師が指摘

 世界各地でテロ事件が起き、日本もテロと無縁ではいられなくなっている。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、テロと戦う現在の軍事戦略について疑問を提示し、問題を解決できそうな軍事力とは別の可能性を考える。

 * * *
 ぼくたちは脅威をもたらす過激派組織IS(「イスラム国」)をどう理解したらいいのか。テロが起こるたびに、イスラム教徒が誤解を受け、周囲から差別されるが、ISはイスラム教の一派ではない。イスラム原理主義を掲げながら、集団妄想にかかっているのではないかと思う。妄想は、まるでウイルスか細菌のように飛び火し、社会の弱いところに感染して、新たなテロリストを生む。

 集団妄想とカルトは、歴史で繰り返されてきた。『欧米社会の集団妄想とカルト症候群』(浜本隆志、柏木治、高田博行他著、明石書店刊)にはその例が詳しく挙げられている。

 たとえば、11世紀末、ローマ教皇の呼びかけにより、まっとうな若者たちが少年十字軍を結成し、エルサレムへ向かった。ホームレスや犯罪者なども、十字軍に参加すれば許されるとされ、熱狂して参戦した。「戦って死んでも天国へ行ける」とされ、戦場に赴く大義を与えられたことは、現在の自爆テロに走る者たちを彷彿させる。

 ヒトラーのナチスもそうである。集団妄想を利用し、組織のなかに自我を埋没させて、粛々とユダヤ人を大量虐殺していった。

 ISも、イスラム教から逸脱した妄想集団として対処する必要がある。ただし、彼らはイスラム原理主義にこだわっているため、スンニ派の高僧や、資金を流しているスンニ派支援者らが、彼らを説得できる可能性もあるように思う。

 しかし、パリ同時テロ以降、米国を中心とする有志連合は空爆を激化させる方向に傾いている。ISの非道な行為に対して、空爆に踏み切らざるを得なかった事情はわかるが、一般市民を巻き込む空爆は“副作用”が大きすぎる。

 シリアでは、「アラブの春」により火がついた反政府デモが泥沼の内戦となり、4年半で25万人が死亡したといわれている。パリ同時テロの犠牲者以上の人命が、毎日失われていることになる。それは、ISに殺害された者、アサド政権との戦いで命を落とした者、IS以外の反政府軍との戦いで犠牲になった者だけではない。有志連合の空爆によって不条理に死んでいった一般市民もいるのである。

 そもそもISが台頭した背景を考えれば、空爆だけでは解決できない。さらに地上部隊を派遣すればなんとかなるのか。いや、むしろ泥沼になるだけである。

※週刊ポスト2016年1月15・22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
総理といえど有力な対立候補が立てば大きく票を減らしそうな状況(時事通信フォト)
【闇パーティー疑惑に説明ゼロ】岸田文雄・首相、選挙地盤は強固でも“有力対立候補が立てば大きく票を減らしそう”な状況
週刊ポスト
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン