昨年暮れに発表された厚生労働省「患者調査」の最新結果で、国内の糖尿病患者が316万人と過去最高を記録した。同省の別の調査では潜在患者も含む糖尿病患者数は約2000万人。もはや国民病ともいえる状況だが、実は糖尿病について正しい知識を持っている人は少ない。新たな研究から、従来信じられてきた“常識”すらも覆りつつある。
糖尿病は体内に取り込まれた糖質がブドウ糖となった際に、血液中での濃度(血糖値)が異常に高くなる病気だ。
膵臓で作られる、ブドウ糖を筋肉や肝臓などへ取り込むホルモン「インスリン」の分泌や働きの低下が原因で、その分泌などが主に先天的に欠如しているのが「1型糖尿病」、そして加齢による膵臓機能低下に暴飲暴食や運動不足などが引き金となり高血糖が慢性化するのが、「2型糖尿病」である。糖尿病では圧倒的に後者が多く、近年患者が増加している。
その2型を発症させるうえで、最も有力な要因のひとつとされてきたのが喫煙だ。インスリンの働きを低下させて血糖値を上昇させることが従来から知られていた。そのため、糖尿病の予防のためには禁煙が奨励されてきた。
ところが国立国際医療研究センターが、糖尿病やがん、循環器疾患になっていなかった男女約6万人を5年間追跡調査した結果(2012年)によると、男性の糖尿病発症リスクは非喫煙者を1とした場合、現喫煙者が1.06倍なのに対し、5年未満の禁煙者で1.41倍、5~10年の禁煙者でも1.12倍と現喫煙者を上回っていた。つまり禁煙するとむしろリスクが上がっていたのである。
禁煙後には食事量が増えて太り気味になる人が多いため、糖尿病リスク上昇に至ったと考えたかもしれない。だが、同研究では禁煙後の体重増加が少ないグループの方がむしろ発症リスクが増加していた。
日本糖尿病学会認定専門医の銀座泰江内科クリニック院長・泰江慎太郎氏の話。
「この結果から考えられるのは、禁煙後も依存症体質から脱却できず、依存が不規則な生活や間食、過度の飲酒など他の悪い生活習慣に向かった可能性です。体重が変わらないように気をつけていても、禁煙のストレスから糖質を取り過ぎてしまう『糖質依存』に陥ってしまう方が多いということでしょう」
補足しておくが、必ずしも禁煙した人が全員リスクが上がるというわけではない。同研究では10年以上禁煙した人の発症リスクは1以下となっている。ここから見えてくるのは、糖尿病を防ぐための生活習慣の改善は、禁煙という1項目だけでなく、他の項目にも気を配る必要があり、さらにそれを長期間続けなければならないということだ。
●取材/村上和巳(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年2月5日号