愛する人や親しい人の命が残り短いと分かった場合、誰もが思うのが「せめて苦しまずに逝って欲しい」という願いだ。日本人の死因のトップは「がん」だが、がんの死に際はどれほど苦しいのだろうか?
血管の破裂や詰まりによる病気の死に際に対し、辛い闘病のイメージがある「がん」は比較的穏やかなようだ。米山医院院長の米山公啓医師がいう。
「多くの方はまだ『がん=痛い』というイメージを持っていますが、現在は緩和ケアが進歩し、モルヒネを使ったペインコントロールで痛みが軽減され、患者の多くは苦しまずに最期の瞬間を迎えます。医師の間では『がんで死にたい』という人もいるほどです」
ただし、例外といえるのが肺がんだ。とくに肺の表面を覆う胸膜の炎症を併発すると肺の内側に水が少しずつ溜まっていき、取り込める空気の量が減っていく。
「息をいくら吸っても酸素が足りず、水中で溺れているような感覚で呼吸が苦しくなります。末期の肺がんは毎日この状態が続き、苦しさのあまり会話はもちろん寝返りさえできなくなる」(医師でジャーナリストの富家孝氏)
いくら緩和ケアが発達しても、この「息苦しさ」を取り除くのは難しいという。肺がんのみならず、「肺」に関する病は苦しみが増す。
「気管支や肺胞に水が溜まる肺水腫や、インフルエンザにかかった高齢者が発症しやすい肺炎など、肺にかかわる病気は死に至る危険がある上に、酸素を取り込めなくなって苦しみを伴う呼吸困難を起こしやすい」(前出・米山医師)
※週刊ポスト2016年2月5日号