内戦が長期化しているイラクやシリアからヨーロッパへ、多くの難民が移動していること、その受け入れに欧州各国が苦慮していることが日本でもたびたび報じられている。イラクの難民キャンプでの医療支援を長く続けてきた諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、難民の受け入れに積極的にならない日本の役割について論じる。
* * *
「ヨーロッパへ行きたいか? 無理だ。おれの年齢で、こんなに太ってしまったら、ボートで海を渡れないよ」
シュワルマ屋のオヤジは、冗談まじりにそう言った。シュワルマとは、羊や鶏の肉、野菜を薄いパンで巻いたアラブのファストフード。ハンバーガーよりかなりうまい、とぼくは思う。
彼は過激派組織ISに迫害され、シリアから逃げてきた。イラクのアルビルにあるダラシャクラン難民キャンプで、シュワルマ屋を始めた。
難民キャンプはちょっとした町のよう。食堂も商店もある。彼は月300ドルのテナント料を払い、シュワルマを売って何とか生活している。だが、「一人3000ドル」というヨーロッパへの旅費はとても手が届かない。
「本当はおれだってヨーロッパへ行きたい。でも、金がない」
年末年始、ぼくはイラク北部にあるいくつかの難民キャンプを訪ねた。シリア内紛後、難民キャンプの支援をはじめて3年になるが、避難生活が長期化するにともない、ヨーロッパへと脱出する人も増えてきた。
シリアは人口2240万人のうち、760万人が国内避難民に、409万人が難民となって国外へ逃れた。ヨーロッパへの難民は昨年の段階で34万人を超えている。
シリア難民の行先で多いのは、ドイツ、スウェーデン、オーストリア、イギリスの順。ドイツは87%、イギリスは91%を難民認定している。日本政府がシリア人を難民として認めたのは3人だ。