本来、弁護士といえば依頼者の権利や財産を守る存在だが、中には“不良弁護士”も存在する。弁護士に必要な資質や矜持とは何か? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
新聞報道を読んで驚きました。依頼者の財産を着服したり、騙し取ったりした弁護士が過去3年間で23人も起訴され、被害総額は20億円に上るそうです。私たちからすると、弁護士は正義の味方だと思っていたのでショックです。そこでお聞きしたいのですが、弁護士に必要な資質や矜持とは何でしょう。
【回答】
お金に身奇麗にしなければならないのは弁護士に限りませんが、他人から委任を受けるという最も信頼されるべき業務が中心であることからは真に遺憾です。私は開業時に先輩から金は預かるなといわれました。確かに預からなければ金銭的な間違いは起きません。これは身を守る手段です。
しかし、立て替えばかりもできませんので、高額の経費は預からざるを得ません。その場合は預かり金専用口座に入金して、管理します。支出もできるだけ振り込みの形をとり、後日使途を正確に説明し、精算できるようにしています。
この預かり金専用口座を設けることは、日弁連が義務付けています。それでも横領はありえますが、預かり金口座もない事務所への依頼は注意してください。弁護士がなぜ横領するかといえば、世間一般の横領と同じで、お金がないからです。事務所経営の資金繰りの悪化、過大な遊興費、借金の返済、仕事の失敗の穴埋めなど、さまざまな事情があったりします。
横領するような弁護士からは、損失の回収は不可能です。弁護士の不祥事の損失も結局、依頼者本人に帰することになります。みなさんは賢明な依頼者として行動するしかありません。法律事務所と縁がなければ、弁護士会から弁護士紹介を受ける方法もあります。なお、国が後見人に選任した弁護士が横領した場合、家庭裁判所が監督権限の行使を怠ったことが甚だしく不当なときには、国に国家賠償責任を追及できます。
司法修習時代に、弁護教官から「弁護士は請求せず、武士は食わねど高楊枝だ」と教わりました。半世紀前のことで、「士業」などという俗語もない時代でした。今は依頼を受けるときに報酬について説明しなければなりませんが、我々はこうした気構えで仕事をすべきであると思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年3月4日号