税制の歴史は、市民による国家権力との闘いの歴史である。フランスでは不公平な税制への不満からフランス革命(1789年)が勃発、ブルボン王朝は倒れ、貴族や僧侶への免税特権が廃止された。そうした歴史の上に確立したのが「公平」「中立」「簡素」という税制の大原則だ。しかし、今の日本の税制には原則を逸脱した嘘や誤魔化しの数々がある──。
政府は2015年から所得税の最高税率を引き上げ、年間所得が4000万円を超えた人には、所得税45%が課せられることになった。収入が多い人ほど高い税率になる累進課税を強化し、「富裕層の負担を増やす」という説明だった。
ところが、実態は違う。財務省の資料によると、実際に支払われた所得税の負担率(実効税率)は、年収(所得)1億円の層が最も高い約28%で、それを超えると所得が増えるほど負担率が低くなる。年収10億円の層は約23%。年収100億円の超富裕層は約13.5%で、年収1500万円の層とほぼ同じ税率になるのだ(2011年のデータ)。
なぜか? 大企業のオーナー経営者など超高額所得者は、役員報酬(給料)の他に保有株の配当や株取引による収入があるケースがほとんどだ。そのうち役員報酬部分は45%の最高税率が適用されるが、株の配当や利益部分は、どんなに儲かっても一律20%の税率が適用される(源泉分離課税、2013年までは10%)。つまり、株による収入が多いほど実際の税率は低くなるのである。
三木義一・青山学院大学法学部教授(専門は租税法、弁護士)がそのおかしさを指摘する。
「税制の大切な役割の一つが富(所得)の再分配です。資本主義経済では自由競争で勝敗が分かれ、どうしても所得に差がつく。そこで所得が高い人により高い税率を負担してもらい、所得が低い層に社会保障として配分する。この再分配がしっかり機能していれば、社会は安定する。税制はそうやって設計すべきもの。
しかし、自公政権の考え方はそうなっていない。累進課税を強化するといいながら、抜け道をたくさんつくって富裕層を優遇し、再分配より経済成長を促す方向に変えている。経済成長は重要だが、そこで生まれた格差を是正することの方がもっと重要です」
※週刊ポスト3月25日・4月1日号