安倍官邸は今夏の衆参同日ダブル選へ向けてひた走っている。となると、大混乱が予想される。有権者にとっては「衆院選小選挙区」「衆院選比例代表」「参院選選挙区」「参院選比例代表」に加えて、最高裁判所判事の国民審査まで1度に5回の投票を行なわなければならないのだ。選挙ポスターの数もかなり多くなり、政見放送では知らない顔の人々が長時間にわたって大量に登場することとなる。
有権者以上に混乱することになるのは当の候補者と選挙スタッフだ。公選法では、衆院選と参院選では選挙運動のやり方や範囲に細かな違いがある。それぞれにポスターやビラの枚数、選挙カーの台数まで割り当てが決まっており、有権者には見分けがつきにくいが、選挙中に走り回っている選挙カーにも、候補者カー、政党カー、比例カーなど厳密な区分がある。自民党のベテラン秘書はこう心配する。
「衆参ダブル選挙になれば、ひとつの選挙区で同じ政党の衆院の選挙区と比例の候補、参院も選挙区と比例の候補、さらにそれぞれを支援する衆院と参院の政党という6つの選挙組織がごっちゃになって動く。
事務的に大混乱し、選挙違反やミスが続出するのは間違いないでしょう。何より、自民党には30年前の中曽根ダブル選挙を経験した議員や秘書が数えるほどしか残っていないから党全体が未体験ゾーンなんです」
事情は新聞・テレビの選挙担当や裏方の選挙管理委員会も同じだ。テレビのキー局は選挙大特番を組み、どの局がより早く「当確」を打ち、獲得議席予測を的中させるかを競い合う。そのベースになっているのが、各社が投票直後の有権者に誰に投票したかを調査する「出口調査」だ。
しかし、選挙担当記者は「4つの選挙を同時に投票するダブル選は有権者自身、誰に投票したらいいか混乱する。当然、出口調査の精度も下がる」と見ている。
その結果、各局の選挙特番は「当確」マークの候補者がまさかの落選をするという誤報連発で議席予測も大幅に狂う可能性が高い。
「即日開票」が原則の選挙管理委員会はもっと戦々恐々だろう。ダブル選挙の開票作業には総選挙の2倍の手間がかかり、熟練の作業員が足りずに開票作業が大幅に遅れるうえ、集計ミスが続出するリスクがある。
※週刊ポスト2016年3月25日・4月1日号