総合商社業界は、長年「三菱」「三井」「住友」といった財閥系の独壇場だった。ところが資源価格の下落を見越して非資源分野に資本を集中した伊藤忠商事がそれらの牙城を崩し、ついに2016年3月期に利益トップに躍り出る。この大逆転劇を演出したのは、2010年4月から社長を務める岡藤正広氏(66)だ。
岡藤氏は1949年生まれ、大阪府出身。高校生の時に父親を亡くしている。東京大学在学中から、比類ない商才を発揮していたというのは、大学時代に同じゼミに所属していた小川孔輔・法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授だ。
「お茶の水女子大学の寮に住む女子学生が『飲み物を買うには遠くまで行かなくてはいけない』と話すのを聞いた彼は、飲料メーカーに掛け合って自動販売機を設置しました。それでかなり稼いでいたようです。月収15万円以上稼いでいたそうですよ」
財閥系商社を避け、伊藤忠に就職を決めた岡藤氏は、大学を卒業する際に同級生と作った小冊子に「伊藤忠入社 三菱商事、三井物産殲滅」と記した。1974年、オイルショック直後で原油価格がまだまだ高い最中のことだ。
伊藤忠に入社後は輸入繊維部に配属になり、そこで頭角を現わす。岡藤氏を長年取材する月刊BOSS編集委員の河野圭祐氏が話す。
「1970年代後半以降のDCブランド流行、1980年代後半の円高とバブル到来という追い風も受けて、ジョルジオ・アルマーニやミラ・ショーン、ハンティング・ワールドなど、有名海外ブランドの輸入代理権争奪で連戦連勝を重ねました」
さらに、独占輸入販売権だけでなく、ブランドの日本市場における製造・販売の権利を得て、ブランド全体を管理する──いわゆる「ブランドビジネス」を花開かせたのは岡藤氏だった。
この手法は後から他の商社も真似るに至り、岡藤氏は繊維業界で「伝説の人物」と言われるまでになった。
※週刊ポスト2016年4月15日号