心臓は右心房と右心室、左心房と左心室の4つの部屋に分かれている。右心房と右心室には全身を巡った静脈血が戻り、左心房と左心室からは肺で酸素をもらった動脈血が全身に向かって流れていく。通常は左右の心房と左右の心室の間には壁があり、静脈血と動脈血が混じらないようになっている。
ところが、右心房と左心房の間の壁に孔(あな)が開いているのが心房中隔欠損症(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)、心室に孔が開いているのが心室中隔欠損症だ。心房中隔欠損症は、先天性心疾患の約45%を占めており、約1000人に1人の割合で見つかる。慶応義塾大学病院循環器内科の福田恵一教授に聞いた。
「生物はもともと1心房1心室でしたが、進化の過程で2心房2心室になりました。人間も胎児の初期は1心房、1心室ですが、途中で左右に分かれ孔が塞がり、2心房2心室になります。この胎児のときに心房で塞がるべき孔が塞がらなかったのが、心房中隔欠損症です。1次孔欠損と2次孔欠損、静脈洞欠損があり、成人になって一番多く見つかるのが、2次孔欠損です」
1次孔欠損と2次孔欠損は、胎児の成長過程で孔が塞がる順番の違いで、1次孔は孔が大きく子供時代に発見され、手術となる。2次孔欠損は患者の7割と一番多く、成人になって発見される。無症状で40代になる頃から動悸、息切れ、疲れやすさ、むくみなどの症状が出てくる。
心房中隔欠損症で怖いのは、心房細動や奇異性脳塞栓を起こす危険性があることだ。心房に孔が開いていると、血液は左心房から右心房に流れることが多い。たまに咳や深呼吸の際に、右心房から左心房に血液が流れることがある。脚に血栓ができて飛ぶと肺に流れ肺塞栓(はいそくせん)になるが、右心房から左心房に血液が流れているときには、血栓が大動脈から脳に流れ、脳塞栓が起こる。これが奇異性脳塞栓だ。