三菱自動車工業(以下、三菱自工)が約62万台に及ぶ軽自動車の燃費を実際よりもよく見せる不正を働いていた問題は、“燃費第一”を基準にクルマを購入していたユーザーを欺く背信行為であり、同社に向けられた批判が収まる気配はない。
さらに、ここにきて軽自動車以外の車種についても、法令とは違った方法で燃費測定が行われていた疑いが浮上している。
当初はユーザーの走行距離に応じた燃費誤差分(平均7%)の燃料代補償や、協業する日産自動車への損害賠償、国土交通省にエコカー減税の差額を納付するなどして「1000億円規模の金銭補償になるのではないか」(三菱自工関係者)と見られていたが、それだけでは済まないとの観測も出ている。
昨年、ディーゼル車の排出ガス値を不正に改ざんしていた独VW(フォルクスワーゲン)は不正車の買い取りを検討している。三菱自工もそうした対応を迫られるとすれば、経営を揺るがしかねない大きな代償を払うことになる。
2000年以降に繰り返されたリコール隠しに続き、またも噴出した不祥事だけに、三菱自工の変わらぬ企業体質は厳しく問われて当然だろう。だが、今回、同社を不正に駆り立てた背景には、自動車業界全体が陥っていた“果てなき燃費競争”がある。
自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がいう。
「クルマの燃費性能を格段に向上させたハイブリッド車(HV)の登場以降、メーカーの開発現場は、『100メートル単位でも燃費さえ良くすれば売れる』という、せせこましいプレッシャーを浴び続けていたのは事実です。
もちろん、例え1%の燃費向上でも自動車工学上はとてつもない努力のうえに成り立っているのですが、国交省が規定する『JC08モード』で測ったカタログ燃費は、実際の走行燃費とは乖離しているというのが業界の常識でした。
言ってみれば、見かけだけの燃費を上げるテクノロジーに労力を費やし、本当のエコとは何か、そして乗り心地を含めてトータルで魅力あるクルマづくりが追求できていたのか、改めて業界全体で考え直す必要はあると思います」