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孤独のグルメ作者 好きな店は有名無名かかわらず長く続く店

『若月』で焼そばを食べる久住昌之氏

『孤独のグルメ』や『花のズボラ飯』『食の軍師』などの食漫画で知られる人気漫画家でミュージシャンの久住昌之氏が、みずから通う、飾らず旨い老舗店を紹介する。

 * * *
 僕が好きな店は、有名であるなしかかわらず、長く続いてきた店です。30年、40年やっている店には必ず理由がある。そういう店の味は一度食べただけじゃわからないことも多い。
 
 例えば『若月』(東京・新宿)のキャベツとモヤシしか入ってない焼そば。一口食べて「ものすごく美味しいね」っていうものじゃないかもしれないけれど、何度も店に通ううちにじんわりと良さがわかってきて、そのうち「また行きたいな」って思うようになる。
 
 一軒の店を何十年も続けるのって大変ですよ。お客さんに「昔のほうが美味しかった」なんて辛いことをいわれたりしながら、物価や市場の変化と折り合いをつけながら、味を保っていく。そうやって地道な努力を続けている店の味に最近だんだん敏感になってきた。僕自身も歳をとったってことでしょう。

〈新宿の飲食店街「思い出横丁」で昭和23年から営業する老舗『若月』の名物が、ソース鉄板焼そば。具はキャベツとモヤシだけとシンプルで、固めの太麺にポパイソースが絡む。久住氏が通い始めた学生時代から変わらないという味は主張しすぎず、ビールとの相性もよし。鉄板前の席では、焼そばを作る様子をかぶりつきで見られる〉
 
 お客さんも時間をかけて自分の好みを見つけて、通い続けてリピーターになり、常連になっているように見える。『モンスナック』に一人で来る男性客とか、ニコリともせず黙々と食べているんだけど、ここでカレーを食べるのを楽しみにしてきた、という喜びがにじみ出ているんです。

『川栄』(東京・赤羽)で、鰻が焼けるのを待つ間、一杯やっている人の嬉しそうな、晴れがましい表情も、僕のうな重を美味しくする。そういうお客さんの姿を見られる店に行くと、一人であってもなんとも和んで、また来たいなって思うんです。好きな店なんて、数はいらないです。

●くすみ・まさゆき/1958年生まれ、東京都出身。漫画家、ミュージシャン。1981年、短編漫画『夜行』でデビュー。実弟・久住卓也とのユニット Q.B.B.作の『中学生日記』(青林工藝舎刊)で、第45回文藝春秋漫画賞を受賞。谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』(扶桑社)はドラマ化されて、劇中音楽も制作。『花のズボラ飯』(秋田書店)、『食の軍師』(日本文芸社)など著書多数。

■撮影/中庭愉生

※週刊ポスト2016年6月3日号

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