国会会期末(6月1日)を目前に控えた永田町では、衆参同日選をめぐる〈安倍晋三首相VSオール衆院議員〉の攻防が展開されている。サミット直前に開かれた衆院のある委員会の理事懇談会。話し合いが終わると、自民党理事の1人が民進党理事のもとにツカツカとやってきて真顔でこう訴えた。
「頼むから内閣不信任案は出さないでほしい。解散したいのは総理だけで、菅義偉・官房長官は大反対だし、われわれも選挙などしたくない。しかし、野党に不信任案を出されると総理に解散の口実を与えてしまう」
与野党がスクラムを組んで安倍首相に解散を思いとどまらせようという申し入れだった。だが、その言い方は“殿、ご乱心!”を心配する家臣のような口ぶりだ。
「安倍さんならやりかねない」という疑心暗鬼は自民党の最高幹部も同じだ。
高村正彦・自民党副総裁は、「私みたいな草食系の人間は(内閣不信任案が提出されても)淡々と否決すればいいと考えるが、『それじゃあ、国民に聞いてみよう』と思うのは立派な大義名分になりうることだけは確かだ」と語り、自民党選挙対策委員会の幹部は、「総理は肉食系。最近肉ばかり食べている」という言い方で、周囲が反対しても解散に踏み切る可能性があるとの見通しを語った。
野党も解散を心底恐れている。内閣不信任案が可決された場合、首相は衆議院解散か、内閣総辞職をしなければならない。しかし、衆院で圧倒的勢力を持つ安倍政権は不信任案など楽に否決できるから、本来なら解散する必要はない。
民進党の安住淳・国対委員長は記者会見で不信任案提出が解散・総選挙の引き金になる可能性があることを質問されるとこう語った。
「野党は全部合わせても120票(議席)くらいしかありませんから、それ(不信任案提出)を受けて解散は実際にはあり得ないと思う。総理が決断すれば私個人とすれば受けて立つ」
その顔には、“弱小勢力の野党の不信任案など安倍さんなら数の力で否決できるじゃないか。それなのに解散なんて……”という戸惑いが浮かんでいた。
※週刊ポスト2016年6月10日号