北海道七飯町の林道で親に置き去りにされ、行方不明となっていた小学2年生の田野岡大和くん(7才)が発見されてから約1週間。奇跡の生還劇をテレビで見ながら、40年以上前のわが身を思い起こした人がいた。「洞窟オジさん」こと、加村一馬さん(70才)だ。山中で7日間、少年はなぜ生存できたか──加村さんに聞いた。
〈「洞窟オジさん」こと、加村一馬さん(70才)とは?〉
群馬県生まれ。ひもじさでつまみ食いをしたときなどに、木の棒で叩かれたり、両足を縛られて木の枝から逆さ吊りにされたり…。両親による度重なる虐待から逃れ、13才のときに家出。足尾銅山の洞窟をはじめ、栃木や新潟などを転々としながら、人目を避け、昆虫や小動物、獣などを食し、洞窟などを寝ぐらにして43年間にわたり、サバイバル生活を送った。現在は社会復帰し、障害者支援施設に勤務している。
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オレはさ、てっきりクマに襲われちまったんだろうなぁ、って思ってたよ。だって、7才の子が独りぼっちで7日間だろ…。
まぁ、オレも13才のとき、親からの折檻がイヤで家を飛び出して山の中に逃げ込んで、それ以来43年間、サバイバル生活を送ったけど…とはいえ、あの子は7才だろ。つらかったと思うよ。
■サバイバルの条件1 身を寄せる場所
人けのない山ん中で、何が怖いかって? 獣だよ。草木のカサカサした音や葉っぱがかすれた音が聞こえてくると、無性に怖くなるんだよ。何か動物が出てきて、襲われるんじゃないか、って。
あの子もきっと、歩き始めは音を立てないように静かに歩いてたろう。だけど、周りに誰もいない、だんだん暗くなってくる…そうなると、物音を立てないことなんかどうでもよくなって、知らず知らずのうちに足早になる。で、気づいたら、何から逃げてるんだかわからないけど、追われるように走り出しちまうんだよ。
あの子が賢かったのは、小屋を探したことだね。オレの場合は、家に戻るつもりがもともとなくて洞窟に辿り着いたんだけど…独りぼっちで夜を越すとき、何が大切かって、まずは、雨露や寒さをしのげて、獣に襲われにくいところ、身を寄せられる場所、体を冷やさない場所を見つけ出すことなんだよ。
周りが真っ暗闇にならないうちに自衛隊の小屋を見つけ出して、そこに身を潜めた時点で、あの子は第1関門を越えたんだ。生き残るための条件──そんなものがあるとするなら、その1つ目は、身を寄せる場所の確保だな。