長く生きるほど体の痛みや病気の苦しむとの付き合いが多くなる。終末医療の現場で歯延命治療によって簡単には逝かせてくれない現実がある。本人が元気なうちに「延命治療はいらない」と宣言しても、結局治療してしまうケースは珍しくない。
重度の認知症を患い、自宅で介護を受けていた80代の男性は、家族と看護師との間で「いよいよとなった時でも胃ろうはしないで、自然な最期を迎えさせてあげましょう」との話し合いができていた。ところが、男性が誤嚥(食べ物を誤って器官等に入れること)し、それが元で肺炎を起こして緊急搬送されると事情は一変した。医師に「胃ろうをするしかない。そうしないと餓死させることになる」といわれ、家族は従わざるを得なかった。
他にも寝たきりの夫に柔らかくした食事を補助しながら食べさせ続けていた70代の女性が、医師から「誤嚥して死んだらどうするんだ。あなたは責任を取れるのか」と厳しくいわれ、胃ろうの手術に至った例もある。
延命治療を行なうべきという“プレッシャー”をかけられることが多い背景には医師側の事情もある。「延命治療は診療点数を稼げる」と思っている医者は少なくないのだ。『平穏死を受け入れるレッスン』の著者であり、特別養護老人ホーム・芦花ホームの常勤医を勤める石飛幸三氏はいう。
「特に『胃ろう』は、医療ミスが起きる危険性が比較的少ないうえ、栄養剤などを材料費として請求できる『稼げる治療』として乱造されてきました。医療費と介護費の合計で、年間約500万円の“売り上げ”になるといわれています」
※週刊ポスト2016年7月22・29日号