歯科治療のタブーは数多くあるが、治療による歯科金属アレルギーも大きな問題となっている。
人口20万人弱の地方都市に住む初老の男性は、2004年に歯科クリニックで左下の歯にブリッジを装着する治療を受けたが、手の平や顔にプツプツと小さな膿疱ができて、痒みで眠れない状態になった。
また、歯科金属によるアレルギー治療を目的にした患者が全国から訪れる、横浜の中川駅前歯科クリニックにも、全身が赤く爛れた50代男性などが銀歯を調べてほしいとやってくるという。
今から28年前、旧厚生省が金属アレルギーに関する全国規模の疫学調査に取り組む研究班を設置した。メンバーの一人、愛知学院大歯学部附属病院・服部正巳病院長が当時の状況を語った。
「当時は口の中で使う金属が腐食するなんてありえないという考えでした。でも、口の中にはアルカリ性、酸性食品も入ってきますし、凄い力で噛むので応力腐食(※注/腐食しやすい環境下では、金属が割れやすくなる現象)も起きる」
この研究班は3年かけて全国の実態を調査。国の研究班として初めて銀歯などの歯科金属と、アレルギーの因果関係を明らかにした。しかし、この情報は広く国民に共有されることなく、日本の虫歯治療は銀歯が中心であり続けた。
その後、池戸泉美・口腔金属アレルギー外来医長(愛知学院大学歯学部附属病院)が研究を引き継ぎ、1000人対象の歯科金属アレルギー調査を実施。最も感作率が高い金属はパラジウムで37.9%、ついでニッケル32.9%と判明した。パラジウムは、銀歯に必ず入っている金属だ。
ただし、銀歯を外せば確実にアレルギーが治るわけではないと、池戸医長は警鐘を鳴らす。
「症状の軽減はありますが、完治は難しく、銀歯を外したからといって必ず治るわけではありません。インターネットには金属アレルギーの人に『自費のジルコニア・セラミックに換えましょう! 10万~20万です』という宣伝が多い。治療目的なのか、お金集めが目的なのか疑問を感じるものがあります」
いたずらにセラミックに換える対応が正しいとは限らないのだ。
●取材・文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年8月5日号