4月下旬の夜明け前、異様な音で妻(44才)は目覚めた。ギーッ、ギーッ、ギーッ…硬いものを力いっぱい擦るような音は、隣で寝ていた会社員の夫(50才)の歯ぎしりだった。その日以降、妻は歯ぎしりで眠れなくなった。徐々にその音は大きく長くなった。
「会議に間に合わない!」
「書類が間違っている!」
などと仕事の寝言まで言うようになった。寝不足に耐え切れず、妻に促されて夫が歯医者に行くと、医師から意外なことを言われた。
「おそらくストレスが原因だと思います。何か心あたりはありませんか」
原因は職場にあった。4月から部署が変わり、部下が増え、慣れない環境でストレスが溜まっていたのだ。
「病院で作ってもらったマウスピースを就寝時に装着して歯ぎしりはやんでますが、仕事の忙しさは変わらない…。もっと何か重い症状や病気にかかる気がして、不安で仕方がありません」(A子さん)
A子さんの夫のようにストレスは、さまざまな体の不調や病気を引き起こすといわれている。そもそもストレスとは何なのか。横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義医師が解説する。
「体の外からきた刺激をストレッサーと呼び、ストレッサーに対する体の反応をストレスと呼びます」
そのストレッサーには、さまざまな種類がある。
【物理的ストレッサー】暑さ、寒さ、痛み、騒音、混雑など
【化学的ストレッサー】薬剤、有害化学物質など
【生物学的ストレッサー】花粉、細菌、ウイルス、カビなど
【身体的ストレッサー】病気、けが、過労など
【心理社会的ストレッサー】人間関係、仕事の問題、家庭の問題、大切な人の喪失体験、経済的困窮など
「ストレスは悪いものだと思われがちですが、すべてが悪いわけではありません。適度なストレスは“快ストレス”といって、脳や体を活性化させて、モチベーションをアップさせます。つまり、いいストレスですね。
例えば、ジョギングをして気持ちいいと感じる。緊張して試験に挑みいい点数をとる。これらは“快ストレス”です。その一方で、“不快ストレス”というものがあります。これは、私たちの体に精神的、肉体的に不調を起こすストレスです。つまり、悪いストレスです」(山本医師)
その不快ストレスを私たち日本人は、欧米人に比べて受けやすいという。丸茂医院院長の丸茂恒二医師が説明する。
「なんでも抱え込んでしまう人、生まじめ、気を配りすぎる、無趣味な人はストレスを溜めやすい。特に日本人は生まじめな性格の人が多く、ストレスを受けやすいんです」
それに加えて、ママ友とのいざこざ、ご近所づきあい、SNSや家事に育児――多様化した現代の日常生活ではあらゆるモノがストレッサーになっている。主婦もストレスに晒されているのだ。
※女性セブン2016年9月1日号