「ネオヒルズ族」を覚えているだろうか? 2000年代に六本木ヒルズに拠点を置いて活躍したITベンチャーや投資関係者たちを「ヒルズ族」と呼んだが、彼らが六本木から離れた後に「ネオヒルズ族」と名乗った人たちだ。派手な生活をみずから喧伝していた彼らは、今でもビジネスを続けている。ネオヒルズ族のビジネスによる被害に遭い訴訟を準備中だという男性の告白を、ライターの森鷹久氏がリポートする。
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「着きました★どこにいますか?」
東京・渋谷の明治通りに面した喫茶店。ある男性を待つ私の携帯に、ショートメールが届いた。慌てて入り口付近を覗いてみるが、汗だくのサラリーマンや厚化粧と派手なフリル服でキメた中年女性のグループ、紙袋を下げくたびれたキャップ姿の男がうろついているだけで、ホームページの写真と同じ“被害者”らしき人影は見当たらない。
店員に一声かけ入り口を出ると、キャップ姿の男がこちらを向きニコリと笑顔を作った。勝又陽二・45歳(仮名)。ダーク系のスーツに黒いワイシャツ、赤いサテン地のネクタイで自信に満ちた、ネット上での彼の面影は微塵も無く、平凡な中年男性の姿がそこにはあった。
あらゆる意味で、勝又の人生が変わったのは2年前の事。いわゆる「ネオヒルズ族」と呼ばれる人々がバラエティ番組やワイドショーに登場し始めた時だった。
六本木ヒルズ・レジデンスに住み、足はフェラーリやベントレーといった超高級車。ウブロ、パテックフィリップなどの最高級腕時計を何本も所有し、モデルのような女性を連れて、毎晩のように遊び回る…。彼らが、自身のホームページやSNS上にアップする華々しい日々の様子を見て、かつての勝又は嘆息を漏らすだけだった。
「彼らの姿はまさに成功者。カネなしコネなし学歴なし、ないない尽くしの僕とは天と地の差があると思いましたよ」
ネオヒルズ族は、アフィリエイト広告での収益を得る為に、自身のSNSやブログを使ってありとあらゆる手段で人を呼び込もうとする。某ネオヒルズ族と近しい関係にあったアパレル会社経営のX氏は、その実態を“虚業そのもの”だと指摘する。
「私が知っているヒルズ族の男の場合、愛車と吹聴していたベンツSクラスはレンタカー。家も事務所も六本木ヒルズでしたが、実際は知り合いの社長宅の一室を借りていて、11階にあるレンタルオフィスでした。パネライの時計は香港製のパチモン。靴もスーツも偽ブランド物。実情は池袋のキャバクラ嬢のヒモ。オンナの家で、せっせとウソっぱちの日常をSNSにアップし続けていました」
しかし、この偽りの姿は派手であればあるほど良いのだという。インチキ臭いと呆れる一般的な感覚を持つ人々も入れば、なぜか信じてしまう人達だっている。テレビや雑誌が「イロモノ」である彼らを取り上げた事もあるだろうが、前出の勝又も信じた一人であった。
茨城県出身の勝又は、中堅高校を卒業後に千葉県にある工業系大学に進学。就職氷河期の中、地元の工場に何とか採用されて、20年以上勤務している。手取りは25万円前後で、ボーナスは不景気の煽りを受けて出たり出なかったりだが、兼業農家を営む実家で暮らす身。金銭的な不安はない。しかし、彼には不満があった。