紅葉の名所として知られる、京都のとある寺。夜ともなると、数百本ある紅葉が照明の光で妖しく鮮やかに輝き、池の水面にも映し出される。昼間とは違った幻想的な様子にうっとり見惚れる人、人、人…。その裏で苦虫をかみつぶしたような表情を見せたのは、東京から訪れた観光客だ。
「どこもかしこも混んでいて、ヘトヘトで到着したのが午後。そしたらあっという間に閉め出されました。入れ替え制だっていうんですよ。仕方なくもう1度チケットを買ったら今度は入場制限があって…料金は2倍かかったし、寺側のスタッフは“すんまへんな”とは言うんですけど、態度の端々に“文句あるなら帰ったらよろし”みたいなのがあって、本当に感じ悪かったです」(40代女性)
この入れ替え制とは、閉門時間に参拝客を一度全員出し、ライトアップ観賞には再び専用チケットを購入しなければいけないというもの。つまり、この女性のように、昼に加えて夜も見たければダブルで参拝料を支払わなければならず、なんとも“あこぎ”な制度なのだ。寺社によって導入しているところとしてないところがあるが、清水寺などは夏も導入。春の桜と秋の紅葉シーズンは特に増える。これには京都人からも「さすがにがめつい」という声も…。
ベストセラー『京都ぎらい』(朝日新書)の著者で、国際日本文化研究センター教授の井上章一さんが言う。
「おかげさまで私の本はよく売れたと思います。ですが、出版数から見れば明らかですが、ほぼ毎日、京都を美しく、麗しく語る本が洪水のように出版されているなかではほんの小粒でしかない。メスを入れられたなんて思ってませんね」
そんななか今年もやってきた紅葉シーズン。井上さんの言うように、『京都ぎらい』なんか鼻で笑うかのごとく、やっぱり京都はいたるところでもてはやされている。しかし、だからこそ京都ぎらいは今までにも増して、一層増えている。
「観光客が増えるシーズンはバスの運転手が不愛想になって怖いんですよ。もともと京都のバスの運転手は乗客に偉そうなんです。お札しか持ってないと“なんで細かい小銭を持ってないんですか?”とか嫌みを言うし。支払いにもたもたしていたら、運転手に舌打ちされたりします(苦笑)」(京都市右京区在住・40代女性)
出版業界でも悲鳴は上がる。