1分1秒を争うといわれる脳梗塞の治療に画期的な治療法が登場している。カテーテルを用いて血栓を除去する「血管内治療」で、従来の血栓を溶かす薬を投与する治療法に比べ、治療開始の時間猶予が倍になるという。兵庫医科大学脳神経外科教授の吉村紳一氏がいう。
「今年発表された世界規模の研究では、通常の内科的治療に『血管内治療』を加えると、脳梗塞発症後に患者が自宅に戻ることができる確率が20%向上し、さらに社会復帰できる確率も14%高まった。この治療を施せば、多くの人命とQOL(生活の質)を維持できる」
だが、この治療法には思わぬ「誤算」があった。吉村氏が理事を務める日本脳神経血管内治療学会は、血管内治療を行なう全国約150の施設に対して、各々がどれだけのエリアをカバーしているかのアンケートを行なった。
「直接の搬送だけでなく、他の医療機関からの患者の転送や医師の出張診察まで含めて、施設ごとの受け持ちエリアを調べました。その結果、『県内全域をカバーしている』と答えたのは鳥取と石川の医療機関だけでした。その他の地方はもちろん、東京、大阪などの大都市でも、血管内治療を受けられないエリアが数多くあった」(同前)
効果の割に国内の普及はあまり進んでいない。吉村氏が続ける。
「脳梗塞の死亡者は年間約6万6000人ですが、この治療を受けた患者は6000~7000人にとどまる。タイムリミットが8時間に延びたにもかかわらず、何万人もの患者が必要な医療を受けられていない現実がある」
その理由は大きく3つあると吉村氏は指摘する。
「まずは専門医の数が圧倒的に不足している。また地域による“偏在”も大きい。医師同士の連携が取れていないことも理由です」
最新治療を受けられる地域、受けられない地域ごとの特徴を見てみる。