高齢化が進む日本社会。今後、亡くなる人が増え、今よりももっと「お墓」について考えなければならない機会が増えるだろう。そこでお墓を衝動買いしたというある人物のケースについて、ノンフィクションライター・井上理津子さんがレポートする。
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「私は小さなお墓を衝動買いしました」と話してくれたのは、東京都町田市に住む公務員、吉原聡美さん(50才、仮名)。
三男だった父が亡くなった3年半前のことだ。病院で未明に息を引き取り、家族、親戚への連絡や葬儀社の手配などに慌ただしく、夜が明けた。遺体となった父が寝台車で葬儀会館に運ばれるのを見送り、いったん家に帰るため、夫の車の助手席に乗った。
「その時、そうだ、お墓買おう──と急に思い立ったんです。急ぐ必然性はちっともなかったんですが、2年近く入院して逝った父に『住処があるほうが安心よね』みたいな気持ちだったんだと思います」
13年前から同居していた。父の田舎・山形に本家のお墓があるはずだが、もう山形に親戚はいない。
いつも、犬の散歩で尾根道を通る。そこから見渡せる丘陵に霊園ができていた。何気なく見ていた、その霊園がふいに頭に浮かび、夫に車を走らせてもらう。着くと、管理事務所が今まさにその日の営業を開始しようとする時間。飛び込んだ。
「100万円で買えるお墓、ありませんか」
吉原さんは「100万円」を目安にしたのだ。
「墓石込み120万円の区画なら、昨日キャンセルが出たところですが」
縁があったんだね、と夫が微笑む。区画を案内してもらい即決した。1平方メートル弱の狭い区画。「松竹梅」のように3種類見せられたオーソドックスな和型の墓石は、迷うことなくいちばん安いものを選び、自宅にいた母には事後承諾してもらった。