本誌・週刊ポストは12月2日号の「『塩分を減らせば血圧は下がる』はやっぱり間違いだった」の特集記事で、「減塩しても血圧は下がらない」という説を紹介した。健康な人であれば日本人の平均塩分摂取量12グラムを大きく下回る減塩は不要だという専門家の見解を伝え、「塩分は高血圧の主犯」という世論に一石を投じた。
さらに取材を進めると、「減塩によって病気のリスクが増大する」という、これまでの常識を覆す論文の数々にたどりついた。
米ラッシュ大学メディカルセンターのラミー・ダッキー博士らが2015年に発表した論文では、833人の心臓病患者を対象に平均3年にわたって追跡調査を実施。減塩食療法を受けている心臓病患者は、受けていない患者に比べ、死亡リスクが69%、入院するリスクが68%も高いという驚きの結果が出ている。
ダッキー博士は論文内で「減塩によって体内の水分が不足する。そのとき水分量を維持するために分泌されるホルモンが心臓病を引き起こす原因になっているのではないか」と推測している。
心疾患に関しては他の報告もある。米エモリー大学のアンドレアス・カロゲロプロス博士が2015年に米誌『JAMA』に発表したのは、1日に摂取するナトリウムが3グラム(食塩なら7.6グラム相当)以下の食事だと、心臓病で死亡するリスクが上昇した、という内容だ。
血糖値に関わる論文もある。米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のラジェシ・ガーグ博士らが、2011年に発表した論文によれば、減塩は血糖値上昇を引き起こすため、糖尿病患者が減塩すると死亡率が上がるというのだ。減塩食によって2型糖尿病のリスク要因であるインスリン抵抗性(※注)が、わずか7日間で生じてしまったという。
【※注/血糖値を下げるはたらきを持つホルモン・インスリンの効きが悪いため、より多くのインスリンを分泌しようとする状態のこと】
世界の医学論文に精通する北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師はこういう。
「今年になってからも、英国の権威ある医学誌『ランセット』に『高血圧患者でも1日7.5グラムより塩分を制限すると、動脈硬化などの病気になるリスクが増えた』との報告がありました」
このように、減塩が体に悪影響を及ぼす場合があるという結果が出ているにもかかわらず、日本では「健康のためには減塩」という“常識”に疑いの声が上がることは少ない。
「塩分は体に必要なもの。健康のために摂取すべき適量がまだ明確になっていないだけなのに“悪者”と決めつけるのは早計なのです」(同前)
※週刊ポスト2016年12月23日号