日本高血圧学会の2014年のガイドラインでは、高血圧の基準値は、血圧の上(収縮期)130mmHg以上を正常高値血圧と呼び“高血圧予備群”として注意を促し、さらに140以上を「高血圧」と分類し、治療対象にしている。
日本では、1999年までは160以上が治療対象とされてきた高血圧の基準が次々と引き下げられて、現在に至る。それによって、奇妙なことが起きた。日本人男性の血圧の平均値(20歳以上、収縮期)は、1996年に137.1だったものが2014年には135.3と微減しているのに対し、その間、患者数は男女合わせて749万人から1010万人に激増しているのだ。
血圧は下がっているのに、高血圧の患者は増えている。どう考えてもおかしくないか。高血圧の予防治療を専門とする医学博士で新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が謎解きをする。
「基準値が変わるたびに高血圧患者の該当者が増えているということ。健康診断で、自分の数値は変わってないのに基準値の変更によっていつの間にか自分が高血圧患者になってしまっていることを知って驚く人も多いはずです」
さらにこう付け加える。
「本来は数値が基準値を超えても、医師が3か月ほど生活指導をして、それでも改善が見られない場合に薬を処方するというのが正しいやり方なのですが、実際には多くの医師がその経過観察を待たずに簡単に薬を処方している。
別の病院で高血圧と診断された後、私の病院に変わって来るようになった人たちの中には、血圧が十分低いのに10年、20年と高血圧の薬を処方されている人たちがざらにいます。患者さんの側も『病院に行ったら薬を出されるから』とそれを受け入れてしまっているんです。厳しすぎる基準と病院の過剰な対応によって、本来は治療の必要のない人たちまで病人にされ、薬を処方されているのが現実です」
※週刊ポスト2016年12月23日号