日本企業の中には、依然として「創業家」の影響が大きなところも少なくないが、2016年、創業家の存在の大きさを改めて世間に知らしめたのが、出光興産とセブン&アイをめぐる騒動である。
出光は昭和シェル石油との合併が難航している中、“前段階”として株式を持ち合う資本提携を検討していることが12月7日に報じられた。
両社は来年4月の合併を目指していたが、出光創業家の反対を受けて、期限を設けずに合併を延期。その後も創業家が会社側との協議に応じないため、新たな対応策を打ち出さざるを得なかった経緯がある。しかし、今回の資本提携案にも創業家の反発が予想され、前途は多難だ。
セブン&アイでは、鈴木敏文名誉顧問(前会長)の次男・鈴木康弘取締役が、12月30日付で退任する見通しだ。その一方で、創業者である伊藤雅俊名誉会長の次男・伊藤順朗執行役員が19日付で常務執行役員に昇格する。社長人事に始まった一連の騒動は、創業家が“カリスマ経営者一族”から主導権を取り戻す構図で収束しそうだ。
なぜ出光家、伊藤家は動いたのか。ファミリービジネスに詳しい日本経済大学大学院教授の後藤俊夫氏は、「どちらも経営陣が創業家の“沈黙”を、“容認”と見誤ったために騒動に発展した」と指摘する。
セブン&アイの鈴木敏文氏はイトーヨーカ堂の伊藤雅俊社長に見出され、伊藤社長の下で事実上の全権を握ってきた。
「鈴木氏はセブン-イレブンの創業を大成功に導いた実績があるが、あくまでそれはグループの経営を委任されたにすぎず、委譲されたわけではなかった。
会長退任のきっかけになった社長人事では、取締役会の過半数を持っていないのに、自分の議案が通ると思っていた。結果的に否決され、辞任することになりましたが、伊藤会長が発言を控えていたために、鈴木氏は“自分は伊藤オーナーから全権を委ねられている”と誤解してしまったのではないか」(後藤氏)