脳や脊髄など中枢神経系の炎症性の病気である、多発性硬化症(MS)は、自己免疫疾患の一つと考えられている。発症要因は遺伝性の他に喫煙、太陽に当たらない地域に多いEBウイルス感染など環境因子が考えられ、欧米での発症例が多い。しかし、ここ30年は日本でも患者が約20倍と急増している。喫煙率の低下やEBウイルスの感染者数が横這いであることを考えると、患者が急増する理由が見当たらない。
国立精神・神経医療研究センター・神経研究所多発性硬化症センターの山村隆センター長に話を聞いた。
「脂肪分の多い洋風料理を食べ続けたと思われる、欧米に長期滞在した方、海外生活歴がある方がMSを発症する例を、連続して診察しました。この経験からMSの発症は食生活の変化による腸内細菌変化と、それにともなう免疫異常が原因の一つだと考え、研究を始めました」
中枢神経系に炎症病変ができるMSモデルマウスに、腸から吸収されないタイプの抗生物質を2週間飲み水に混ぜて与えたところ、炎症が軽減した。これは抗生物質により、腸内細菌のバランスが改善し、症状が緩和することを意味している。その後、アメリカやドイツの複数の施設で実験が行なわれ、同様の結果が得られている。