国による法規制が当面見送られた受動喫煙問題。だが、“屋内禁煙エリア”を強制的に広げようとする動きは地方自治体に及び、愛煙家にとってはますます肩身が狭くなりそうな雲行きだ。
東京都議選で大勝した小池百合子知事率いる「都民ファーストの会」は、〈スモークフリー社会〉を基本政策のひとつに入れ、職場や公共の場所での禁煙徹底などを盛り込んでいる。都は独自に子どもを受動喫煙から守る条例をつくると公約を掲げているが、その中には家庭内や自家用車内の喫煙まで規制していく案もあるという。
東京都だけではない。豊島区も〈子どもを受動喫煙による健康への悪影響から保護するため〉との目的で区の条例を制定しようとしており、現在、条例案についてパブリックコメントの募集が行われている段階だ。
同案では子どもを〈児童虐待の防止等に関する法律に規定する児童〉と位置づけ、家庭内や自家用車内、カラオケボックスなど、いわば家族団らんの場での大人の禁煙も明記。しかも、継続的に受動喫煙を受けていると疑われる子どもを発見した人は、保健所もしくは子ども家庭支援センターに“通報”することができる──とまで定めている。
もちろん、子供や非喫煙者が密室状態の場で長時間たばこの煙にさらされることはもってのほかだが、合法的嗜好品であるたばこに対し、これ以上ヒステリックに規制をかけ続ければ、程度の問題を通り越して「喫煙行為=悪」になりかねない。
果たして、このような条例案による「縛り」が次々とできていく社会は健全といえるのか。行政法に詳しい東海大学名誉教授の玉巻弘光氏に聞いた。
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──東京都や豊島区が考えているように、家庭内や自家用車などでも「喫煙をしてはならない」と条例で定めることは、少しやり過ぎではないのか。
玉巻:子供が密閉された空間でたばこの煙を浴びることは極力避けなければなりませんし、受動喫煙による健康被害がある場合、それを防止しなければならないという条例制定の前提はまったくその通り。異論はありません。
しかし、「法は家庭に入らず」という思想があるように、公権力が家庭のプライバシーにまで関与することは原則としてないほうが望ましいでしょう。
もちろん家庭内で殺人が起これば警察が入りますし、今は児童虐待防止法やDV防止法などもありますが、それは“方法と程度”の問題。現実に生命や身体を害される、または害される恐れのある人がいて、放置できない場合は家庭に踏み込んででも防止する。それは法が保護の対象としているものの価値にも見合った規定です。
では、たばこの問題はどうでしょう。確かにたばこも生命の危機と言われればそうかもしれませんが、科学的・医学的に健康被害を生じることが検証されている受動喫煙と、その程度には至らない受動喫煙とをはっきりと分けて考える必要があります。いま直ちに止めなければならない暴力行為や精神的虐待に比べ、非常に緩慢で長期にわたる侵害であれば、対応策も異にしていいはずです。