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エログロ発禁本2万点収集した89歳 妻が貯金おろして入金

「発禁本収集の王」と呼ばれる人物がいる。城市郎・89歳だ。「あらゆる種類の本が宝であり頬ずりしたいほど愛しい」と終生語った人である。

 蒐集した〈発禁本〉が2万数千点。性典、奇書、共産党宣言、文芸書、春画……コレクションにとり憑かれた鬼だった。

 成果は膨大な数の著書に残されたが、なかでも〈性〉に関しては別冊太陽「発禁本Ⅱ『地下本の世界』」(平凡社刊)が圧巻である。

 A4大判に圧倒量の写真を載せ、しかもエロ文の中身も紹介している。「指先をとどかせて、出し入れしながら(中略)まんべんなくくじり廻すと、女はいよいよ我を忘れて。『そこいいわ、そこもっときつにして、あレもうどうしよう』」と、『性のしるべ』にある。

 読売新聞の給仕や、鉱山会社、運送会社に勤めたりしながら、ひたすら古書店にカネをはたいた。最初は永井荷風、谷崎潤一郎など文学全集だった。あとで発禁常連の作家たちだと知って、好奇心を湧かせ、「プロレタリア文学集」を買ったら『蟹工船』が全部空白になっている。発禁にのめりこむ、それがきっかけだった。

 奥さんに、「あんたが死んだらどうするの。どっかに寄付するなら決めておいてもらわなくては困る」といわれてきた。だが、本人はふんぎりがつかない。直腸から尿管まで「全内臓半壊死状態」のがん病床にあってなお、古書店の目録を目にして、うめく。 

 ああ、これが欲しい。すると奥さんが貯金をおろして郵便局の振替用紙に入金にいく。「収集家はみなライバル」「あらゆる本は美しい」――戦後のエログロカストリ雑誌まで例外なく愛でた。

 現在89歳。氏による「発禁本」ベストスリーは永井荷風『ふらんす物語』、作者不詳『四畳半襖の下張』、それに『高橋鐵コレクション』だった。

※週刊ポスト2011年2月4日号

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