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春画 着衣のままセックスする絵柄はなぜ生まれたのか?

2011.03.12 15:59

 江戸時代の識字率の高さや教育制度の充実は世界的にも群を抜いていた。大名や武士などの上層階級だけではなく、職人や商人など庶民も書物に接し、高度な文化を享受した。彼らは西洋的な性意識に縛られていなかったために、生活に根付いた色事の文学である浮

 江戸時代の識字率の高さや教育制度の充実は世界的にも群を抜いていた。大名や武士などの上層階級だけではなく、職人や商人など庶民も書物に接し、高度な文化を享受した。彼らは西洋的な性意識に縛られていなかったために、生活に根付いた色事の文学である浮世草子や、男女の性愛を活写した春画に記された書き入れなどを男女の隔てなくおおっぴらに愉しんでいた。出版文化という切り口から江戸時代の寛容で奔放なる性に迫る――。

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 エロティック・アートの普及は、肉筆から木版という出版文化の興隆と密接にリンケージしている。とりわけ元禄期は、『好色一代男』に代表される好色本(浮世草子)の井原西鶴や、『曽根崎心中』で知られる近松門左衛門ら実力ある作家の台頭で京・大坂の出版業者が活況を呈した。
 
 同時期、上方絵師の西川祐信や吉田半兵衛、月岡雪鼎らが春画を描き、浮世草子の挿絵も担当した。ことに祐信は、町人や庶民の性生活を、情景も含め思い入れたっぷりに活写してみせた。彼の着想と作品は江戸絵師たちに衝撃を与え、従来の武家社会や古典から、庶民へとモチーフを転換させる原動力となった。

 一方、江戸では菱川師宣が木版春画を創始し、肉筆浮世絵から墨摺絵へと形態を激変させた。そこに前記の上方出版文化がなだれ込むことで、エロティック・アート全盛の素地は固まったといってよいだろう。

 さらに、文化文政期は江戸庶民のパワーが爆発する。『江戸の出版事情』(青幻舎刊)の著者、昭和女子大の内田啓一教授に当時の状況を聞いた。

「カルチャーの中心は上方から江戸に移ります。文学では滑稽本、黄表紙、人情本や川柳などが流行しました。絵画も金銀摺、空摺、艶摺など技術の飛躍的向上により、縮緬模様や透かし、ぼかし、凹凸まで印刷できるようになり、浮世絵は一気にカラフルとなり大人気を博します。当然、江戸の出版業は繁栄し、流通システムも発達しました」

 春画に関する著書が多数ある、浮世絵研究家の白倉敬彦氏は頂点を極めた印刷技術と春画の相関関係を語る。「春画で着衣のままセックスする絵柄が多いのは、着物の色彩や柄、文様まで表現可能になったからです。女性にとって春画は、最新ファッションテキストでもありました」

 春画や艶本はたびたびの規制、弾圧を受けたものの、しぶとく生き残る。しかも購買層は庶民だけではない。大名や旗本たちは当代一流の絵師や戯作者たちを呼び、私家版の絵暦を春画仕立てで制作、正月には殿中で交換しあっていた――まさに、エロティック・アートは江戸の華だったのだ。

※週刊ポスト2011年3月18日号

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