ライフ
2011.04.13 16:00 週刊ポスト
喪失感抱えたすべての人に読んでもらいたい本を香山リカ紹介
【書評】『悲しみの中にいる、あなたへの処方箋』(垣添忠生著/新潮社/1365円)
評者:香山リカ(精神科医)
* * *
戦後最悪の自然災害となった東日本大震災。その犠牲者の数が1万、2万と言われようとも、家族や知人にとっては、あくまで“ひとりひとりの死”なのだ。
また、家族とともに家、財産、仕事なども失い、呆然としている人もいるだろう。さらに、直接の被災者ではない人たちも、テレビの映像などを通して「日本から何かが失われた」と大きなショックを受けているはずだ。
そんな喪失感を抱えたすべての人たちに読んでもらいたいのが、がん専門医である垣添忠生氏が、グリーフケア(悲嘆を癒す)についてわかりやすく記した本書だ。
医学者が書いた本といっても、決して難解な解説書ではない。第1章では、著者自身が愛妻をがんで失ったときの壮絶な悲しみと回復の過程が率直に語られる。そして2章以降では、一般に親しい人と死別した場合にどんな反応や症状が起きるのかが、具体例をあげながら示される。
「“ショックが大きすぎて悲しめない”という感情のマヒ」「“そんなはずはない”という否認」「“こうしていたら”という罪悪感」「“誰もわかってくれない”という疎外感」など、ひとつひとつ説明されることで、混乱の中にいる人も気持ちが整理されるのではないだろうか。
さらに最終章では、悲嘆に暮れる人たちへの処方箋も添えられている。その中で著者が繰り返すのは、「悲しいのはあたりまえ。しっかり涙を流し、無理をせずに苦痛を吐き出しなさい」ということだ。「もう平気」とやせがまんをせずに、「淋しさで胸がいっぱいになっているときに『淋しい』と、そっとつぶやくだけでもよい」という。著者自身、死別からすでに3年がたつが、それでも「ひとりで自宅に帰ると、やはり悲しみが毎晩のように訪れてきます」とも打ち明ける。
しかし、それでよいのだ。愛する人や土地との別れが、悲しくないわけはない。「悲しみを抱いたまま生きる生活に慣れて」という著者の言葉をかみしめながら、私たちもこれから生きていきたい。
※週刊ポスト2011年4月22日号
関連記事
トピックス

がんステージIVの23才女性「私がたとえ死んでも」壮絶出産の全記録

『共演NG』演出家・大根仁「ホテルと空港が舞台だったワケ」

検診控えで「隠れがん患者」4万人か 見逃し死がコロナ死を超える懸念も

美容・ファッション業界に残る「顔採用」 いつ改められるのか

「ハロプロ最強美少女」上國料萌衣に期待される「起爆剤」役

離婚成立KEIKOが告白 小室哲哉の不倫会見で「許せなかったこと」

福原愛の横浜不倫デート1日目の全貌 ソフトクリームを「あーん」も
