国際情報

ケタ違いの数の原発建設計画ある中国の安全性に疑問の声

 ご存じだろうか。中国では将来、原発を230基も建設するという。世界にも類のないケタ違いの計画だ。盗用・パクリが当たり前と言われるこの国で、はたして安全性に問題はないのだろうか。
 
 * * *
 現在、中国では13基の原子炉(総設備容量は1080万kW)が稼働中だが、中国国務院はすでに32基の新規建設を承認し(内28基は建設中)、建設承認の前期作業に入った原発は38基ある。建設・計画中だけで計70基で、20年までに現在の7倍の約7000万kWと、日本を上回る規模になるが、中国政府は2050年までに230基(3億2400万kW)まで増やし、世界最大の原発大国となる計画である。
 
 世界的にも例のないスピードで建設を進めているわけだが、なぜこれほど急ぐのか。中国の原発事情に詳しいエネルギーアナリストの窪田秀雄氏はこう説明する。
 
「中国では電力供給の約7割を石炭火力が担っています。中国は石炭大国ですが消費量も多いため、資源可採年数は38年(2009年BP統計)と推定されています。石油や天然ガスも枯渇に向かっています。また、中国政府として公約した二酸化炭素の排出削減をするためにも早急に原発への転換を進めているのです」
 
 背景には化石燃料資源の枯渇がある。しかし、これほど性急な建設には、政府内でも意見が分かれているという。前出の窪田氏が解説する。
 
「1月に国家エネルギー局を退任した張国宝局長は、“やみくもな拡大計画は絶対に許可できない”と発言しました。国務院研究室も目標を下方修正すべきと提言しました。その理由はあまりにも速いペースで開発が進んでいるためです」
 
 窪田氏によれば、原子力発電開発の一つのネックとなっているのが「人材不足」。中国では多数の大学で原子力工学科が設立されているが、開発のスピードが速すぎるため、とくに経験を積んだ人材の不足が恒常化している。原発の増加に人材供給が追いつかなくなると安全な運転に支障をきたすという側面も否定できない。
 
 もう一つは「品質のムラ」だ。中国で建設・計画中の原子炉は、フラマトム(現アレバ)の炉をベースに改良したCPR1000と、ウェスチングハウス(東芝の傘下)の最新型AP1000が主体で、前者の国産化率は80%に達し、後者も国産化を進めている。原子炉の部材には極めて高い品質が要求されるが、品質保証システムが十分でないうえに工期を急ぐため、品質問題がたびたび発生していると国務院研究室は指摘している。続けて窪田氏が指摘する。
 
「AP1000をベースにした国産化では、出力を100万kWから140万kW、170万kWへアップしようとしています。開発にあたってはウェスチングハウスもかかわっており、将来的には輸出も視野に入れています」
 
 だが不安は残る。こんな先例があるのだ。中国は日本から新幹線を導入する際にも、営業最高速度250kmで設計した車両(CRH2)を独自に改造して350kmで営業運転を開始したため、JR東日本と川重が厳重抗議したことがある。オリジナルと性能が同じでは大国のメンツに関わるのかもしれないが、高すぎるプライドは身を滅ぼすことになりかねない。

※SAPIO2011年5月4・11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト