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米国では「努力しないと一生マクドナルド店員」は差別でない

 おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれ。元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、2007年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に在住。著者に『ベイビーパッカーでいこう!』や週刊ポスト連載をまとめた『アメリカなう。』などがある。おぐに氏が、アメリカの「職業意識」を解説する。

 * * *
 息子がある日、いった。

「中学の理科の先生がね、『しっかり勉強しないと、大学に行けないわよ。そしたらアンタたち、一生、マクドナルドでハンバーグを焼き続けるか、スクールバスの運転手になるしかないんだからね』って、クラスの皆に説教したんだよ」

 私は、びっくり仰天! それって「職業差別」じゃないのよっ。

 だいたい、特定の企業を名指しするなんて失礼千万だし、教育者がスクールバスの運転手を生徒の前で見下していいの? そんなことだから、スクールバスの運転手をバカにし、反抗的な態度を取る中学生が後を絶たないんじゃないの。今回ばかりは、捨ててはおけないわ……。

 そんなわけで「先生、子供には『職業に貴賤なし』と教えてください!」と、学校に手紙を書きかけた。途中で「日米で職業差別に対する考え方が違うのかも」とチラリと思ったのと、そもそもビミョーな話題について上手に抗議できるほど、英語力に自信がなかったもんで、結局あきらめちゃったんだけどね。

 後日、アメリカで公立校の教師をしている日本人の友人に聞いてみた。「どう思う? こんな発言ありえないわよねーっ!」と。

 ところが彼女は平然というのだ。「スクールバスの運転手、ってのは初耳だけど、『勉強しないと、マクドナルドでハンバーガーを焼くだけの一生よ』ってのはもう決まり文句よ。私は使わないけど、教師仲間でも平気で使う人、結構いるわよ」。

 そ、そうなのっ? 少なくともタテマエでは、日本なんかよりずっと人種差別に厳しい国なのに、どうして、職業差別はOKなわけ?

 友人が説明してくれた。「どんな仕事を得るかも、年収をいくら稼げるかも、本人の努力の結果、と考える国だからね。『一生涯、ファストフードの店員』なのは本人の責任であって、彼らを見下しても差別とは見なされないのよ。だいたい『職業に貴賤なし』なんて、アメリカじゃ誰も信じてないかも……」。

 うーん、確かに、高卒より大卒、大卒より大学院卒のほうが年収が高いこの国の現実を「学位偏重社会」と批判する人なんて見たことないもんな~。努力し、自己投資した者が得る当然の結果ってことなんだろう。

※週刊ポスト2011年6月24日号
(「ニッポン あ・ちゃ・ちゃ」第149回から抜粋)

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