国内

NHKの「人肉食った日本兵」表現に捏造疑惑 NHKは否定

NHKは年間7000億円近い受信料を集める世界最大規模の放送局である。それでも飽き足らず、ワンセグ携帯やテレビ視聴できるパソコンからも受信料を取ろうとする。さすが資金も潤沢で、社員の給料、福利厚生は日本企業のトップレベルである。ならば、それに見合った番組と、高いモラルを見せてもらいたい。社を挙げて取り組む「国家的プロジェクト」に浮上した重大疑惑に、天下の公共放送はどう答えるか。

まずは、疑惑の放送内容を紹介する。この番組は2009年にBS-hiと総合テレビで放映され、今年8月には総集編が放映されている。

ニューギニアの激戦地に派遣されたAさん(92=放送当時、放送では実名)が、日本軍による「人肉食」を告白する衝撃的な場面である。

〈まあ、兵隊さんは友軍(日本軍)がね、死ぬでしょう。死ぬと埋めるんだよね。友軍を埋めて、それでもさ、そのまま部隊をそこからどっかへ移動するでしょう。このまま移動するのはもったいないというんで、その友軍の肉を、土を少しかけて置いといてさ、それから取っちゃってな、それで肉を切って食べてきたんだ〉

Aさんはさらに、死んだら腐ってしまうから、仕方ないのだと話す。それに対し、女性スタッフの声でこんな質問が挿入される。

〈すごい、抵抗感とかもあったんじゃないですか?〉

Aさんが答える。
〈そら、あったね。あったけども、体力がなくて(食べ物が)欲しいんだから。食べたいというね、その食欲っちゅうかな、食べようという欲望のほうが多いんだね、生きるためには。生きるためには食べなきゃしょうがないでしょ。おなか空いていたら、何だって食べなきゃしょうがない〉

これが事実なら勇気ある証言である。そして、大岡昇平が小説『野火』で明らかにして物議をかもした日本軍による友軍の人肉食が、当事者によって告白された恐らく初めての記録となる。

が、果たしてその通りなのか、疑問が残るのだ。

“衝撃証言”への疑念は、皮肉なことにNHKが自ら公開している「NHK戦争証言アーカイブス」(保存・公開されている取材データ)から生じた。

このなかに番組の元になったAさんの証言VTRが収められており、そこではAさんは、人肉食ではなく「ネズミ食」について生々しい体験を語っている。

前述の女性スタッフの質問の直前までの話はこうである。

〈飛行機の部品をネズミ捕りにできるんだよ。それを仕掛けとくとね、一晩で2匹獲れるの。それを皮をむいてね、生で食べるんだよ。最初は生で食べられなかったの。(中略)そのうち生で食べてみようって。それで一回食べたらもう大丈夫だって、生で食べてた。ネズミ、うん。だけど旨いよ、結局は。みんな食に飢えてんだから。よく生きて帰ったと思うけどね〉

そして女性スタッフが「一回やるまでは」と前置きしたあと、前述の通り、「すごい、抵抗感とかもあったんじゃないですか?」との質問が入り、「そら、あったね」と続くのである。

このVTR自体も一部編集されているが、Aさんは「何だって食べなきゃしょうがない」と話した後も、しばらくネズミ食の話を続けており、アーカイブスを見る限り、一連の証言が「腹が減った兵士たちはネズミを生で食べて飢えをしのいだ」という内容であることは疑いの余地がない。

前述の人肉食に関する発言はアーカイブスには見当たらないが、それとは別に人肉食について語った場面はある。ただし、その話も放送された証言と同様に第三者の目線から語るのみで、本人が人肉を食べたという証言ではない。

NHKのドキュメンタリー番組に携わっていた元番組制作スタッフは、両方のVTRを観てこう語った。

「これはネズミ食の話を人肉食の話に見せようと意図的な編集をしたものでしょう。ネズミの話だからAさんは笑っているが、番組を見た人には、人肉を食べたのに『お腹が空いていたから仕方ない』とヘラヘラ語っているように見える。

番組では他の元兵士も人肉食については伝聞しか述べていないから、制作者は番組の構成上、どうしても人肉食の証言が欲しかったのではないか。NHKの番組作りは、あらかじめ決められた企画コンテに沿った事実だけを拾う傾向がある。制作はNHKと制作会社が共同で行なっているので、NHK側が制作会社に『人肉食の証言を取りたい』と要求したのかもしれない。

番組の編集をチェックして問題を未然に防ぐ仕組みも十分とはいえない。プロデューサーは普通、映像を細部まで確認する作業はやらない。そうした悪い面が重なったのだと思う」

証言の真意を確認するためAさんを探すと、現在も94歳で存命、家族と暮らしていることがわかった。

しかし、取材依頼には家族が応対し、「本人は高齢で取材を受けられる状態にない。お話の主旨は理解したが、そっとしておいてほしい」と、直接話を聞くことができなかった(そのため本稿では匿名にした)。

本誌はNHKに対し、本稿で示した疑問点を説明したうえで、番組担当者への取材を申し入れたが、NHKは文書でこう回答した。

〈Aさん(※回答書では実名)ご本人は、インタビューの中で、ニューギニア戦線におけるご自身が人肉を食べた体験について、何か所かで語っておられます。また、同様にネズミを食べた経験についても語っておられます(後略)〉

回答書ではさらに、編集に問題がないこと、アーカイブスでは人肉食の証言部分を省略したが、女性スタッフの質問はあくまで人肉食についてであることなどが述べられている。

が、それが事実ならば、人肉食について語った箇所がネズミ食の話になっているアーカイブスのほうが捏造になる。第一、最も衝撃的で貴重な人肉食の話を割愛し、ネズミ食の話だけ残すような編集をしたというのも不自然な話だ。

※週刊ポスト2011年9月16・23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン